コメント HOME コメント り ん コメント かなう コメント Mama コメント T . T コメント Family


コメント コメント コメント コメント   コメント コメント コメント コメント コメント コメント

読書感想文2019 part 5

「読書感想文2019」 part5は、9月〜10月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !

コメント  奇跡の人 (原田 マハ著、双葉文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「The Miracle Worker」。
生まれつき視力が弱く弱視となった去場安(さりばあん)は、1871年(明治4年)、
9歳で日本初の女子留学生としてアメリカに旅立つ。 13年間アメリカで学び、
安は22歳で帰国。 3年後、25歳のとき、伊藤博文から「盲目で、耳が聞こえず、
口もきけない少女」の教師にならないかと誘われる。
1887年(明治20年)、青森の弘前の旧家、介良貞彦男爵の6歳の娘、介良(けら)
れんのもとへ旅立つ。 れんの、21歳の兄、辰彦の縁談は、れんが原因ですべて
破談になっていた。 れんは、一日中、蔵の中に閉じ込められ、使用人たちからも
ぞんざいに扱われていた。 安は、慈愛に満ちた心で、ていねいにゆっくりとれん
と心を通わせていく。 まもなく、辰彦の新しい縁談相手の父、藤本吉右衛門が
介良家を訪れる。 安は一計を案じて、吉右衛門とれんを会わせる。 れんを気に
入った吉右衛門は、縁談を進めようとするが、娘がれんのことで気を病み、破談と
なってしまう、、、。
その直後、れんは、朝食に毒を盛られるが、安の機転で事なきを得る。 しかし、
れんの身の危険を感じた安は、介良の別宅でれんと暮らしたいと貞彦に懇願する。
別宅で、れんは、ことばを覚え始める。 やがて、安とれんは、盲目の津軽三味線
の旅芸人、キワと出会う。 安は、キワを夏の間、別宅に引き取り、れんとともに
教育を施す。 7歳のれん、10歳のキワは、すぐに打ち解け、次々にことばと文字
を覚えていく、、、。
まもなく、別宅に現れた貞彦は、れんの成長ぶりに驚き、れんと安を家に連れ帰る。
母に甘やかされ、れんがまた元の状態に戻ることを恐れた安は、身を賭して、れん
の教育をする決意を貞彦と家族に伝える、、、。
ヘレン・ケラーとアン・サリバンの物語を同じ時代の日本に置き換えた物語。
オリジナルの「奇跡の人」をわざわざ日本に置き換えて小説を書いた意味を十二分
にわからせてくれる傑作。 この作家の懐は、ほんとうに深い。
プロローグが1954年(昭和29年)、エピローグが1955年(昭和30年)のお話。
80歳近くになったれんとキワを描いている。
サブタイトルにもあるように「奇跡の人」とは、れんのことではなく、奇跡をもた
らした安のことを指す。 でも、二人とも奇跡の人にふさわしい。
オススメ度:8.5

コメント  仏果を得ず (三浦 しをん著、双葉文庫)   作品の紹介 

文楽に情熱を傾ける若手大夫の奮闘を描く青春×お仕事小説。
健(たける)は、文楽の義太夫節を語る太夫。 この道10年とはいえ、まだ若手。
友人の経営するラブホテルに住んでいるが、頭の中は文楽一色。
健は、ある日、師匠の、人間国宝で太夫の銀大夫から、三味線、兎一郎と組むように
言い渡される。 兎一郎は「実力はあるが変人」、しかも楽屋にいないことが多い。
いっしょに稽古することなくいたずらに日々が過ぎ、銀大夫から雷を落とされる。
ようやくいっしょに稽古をするようになると、健は兎一郎の変人ぶりに振り回される
が、改めて腕の確かさに感心し、文楽に対する熱い思いを知る。
兎一郎との関係も軌道に乗り、真摯に仕事に向き合う健。 しかし、ボランティアと
して文楽を指導している小学校の生徒、三年生のミラの母、真智に恋をする。
悶々とするだけで、想いを伝えることのできない健。 すると、真智が突然、健を
訪ねてきて言う、「あんた、うちのこと好いとるやろ」。 健はかすれた声で「はい」
と答えた。 かくして二人は恋人の関係に。
そして、次なるサプライズは、銀大夫が健に与えた「仮名手本忠臣蔵」の大役。
しかも、銀大夫は、ライバルの人間国宝、砂太夫に教えを乞えという無理難題を健に
押し付ける。 砂太夫に遺恨のある兎一郎の協力が得られないまま、健は砂太夫に
稽古を懇願するが取り合ってもらえない。
ミラちゃんに告白され、とまどう健に追い打ちをかけるように、銀太夫は、砂太夫から
稽古をつけてもらえるまで真智に会うな、と命じる、、、、、、。
ほとんどの人にとってなじみがないであろう文楽をここまでわかりやすく、おもしろく
小説にしてしまったことに、まず、驚き。 硬軟織り交ぜたバランスも絶妙。
人物造形、それも脇役のそれが最高。 涙も笑いも感動も詰まった佳作。
文楽とは、太夫、三味線、人形が一体となった人形浄瑠璃の芝居。
「仏果」とは「仏道の修行によって得た仏の境地」のこと。 主人公の健が「成仏なんて
しないで、生き抜いて、義太夫を極める」決意を固めるくだりがよかった。
オススメ度:8.2

コメント  あの家に暮らす四人の女 (三浦 しをん著、中公文庫)   作品の紹介 

杉並の古びた洋館に暮らす四人の女性の物語。
刺繍作家の佐知、37歳。 佐知の母、鶴代、68歳。 佐知の友人で保険会社の
OL、雪乃、37歳。 雪乃の会社の後輩、多恵美、27歳。 そして、洋館の離れ
に一人で暮らす老人、山田一郎、80歳。
家で仕事をする世間知らずの佐知。 佐知を上回る世間知らず、箱入り娘の鶴代。
毒舌でさばさばした気性の雪乃。 元彼のストーカー行為に悩む多恵美。
鶴代の祖父に仕えた家宰の息子、寡黙な山田。
多恵美の元彼のストーカーまがいの行為や、雪乃の部屋が水浸しになったこと
など、四人の暮らし、日常を淡々と描いた作品なのかな、と思っていたら、、、
四人の生活を見守り、鶴代の過去を知る、カラスの集合知、善福丸や、鶴代の
別れた夫で佐知の父である神田の亡霊が語り部として登場。 四人の暮らしの
描写を埋めるエピソードを話し始める。 この善福丸と神田の語りが物語に奥行
を生んでいる。 父としての神田の存在は絶妙だった。
谷崎潤一郎の名作「細雪」をベースに書かれた作品。
2015年「織田作之助賞」受賞作。 オススメ度:8.2

コメント  レディ・マドンナ (小路 幸也著、集英社文庫)   作品の紹介 

大人気「東京バンドワゴン」シリーズの第7作。 堀田家の四季を描いた4編
の連作短編を収録。
東京の下町の「東京バンドワゴン」という古本屋を舞台にした家族の物語。
三年ぶりに読んだけど、やっぱりいいわ、この作品は。 人のつながり、
幸せ、想いのすばらしさをこれほどわかりやすく、自然に、まっすぐに
描けている作品は稀でしょう。 今回も、堀田家の大家族を中心に、人が
人を想うことで生まれる笑顔と涙と感動がたっぷり詰まった一作。
シリーズ第1作〜第4作のブックレビューはこちら
第5作〜第6作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.5

コメント  フロム・ミー・トゥー・ユー (小路 幸也著、集英社文庫)   作品の紹介 

お気に入り「東京バンドワゴン」シリーズ第8作にして番外編。 登場人物一人
ひとりの視点で語られる計11編を収録。
最初の話は、紺が語る、出生の秘密を知った中学生の頃の青の話。 第四話は、
二十歳だった亜美が函館で紺と出会ったエピソード。 第六話は、我南人と妻、
秋実の出会い。 第七話は、青とすずみの出会いから結婚までを描いている。
大学教授であるすずみの父と教え子で青の姉である藍子との関係を知り、すずみ
と別れようとする青に手を差し伸べたのは、シリーズ初登場の人物。
そして、第八話が藍子がすずみの父、槙野の子を身ごもり、幼馴染の真奈美に
ささえられ出産に至るお話。
シリーズのファンが、じわ〜っとあたたかい気持ちになるお話がずらり。
オススメ度:8.2

コメント  ユートピア (湊 かなえ著、集英社文庫)   作品の紹介 

太平洋を望む人口七千人の港町、鼻崎町。 日本有数の食品加工会社、八海水産の
国内最大の工場を擁するいなかの町に暮らす30代の三人の女性をめぐる物語。
商店街の仏具店の嫁、地元出身の菜々子。 小学一年生の娘、久美香は交通事故で
車いす生活が続いている。 夫の転勤で八海水産の社宅に暮らす光稀。 小学四年生
の娘、彩也子は美人で利発。 美大時代の恋人、健吾に誘われ移住してきた陶芸家の
すみれ。 菜々子、光稀、すみれの三人は鼻崎町の商店街が主催する祭りの実行委員
として出会い、付き合い始める。 祭りの当日、光稀の娘、彩也子が、菜々子の娘、
久美香のめんどうをみることになるが、火災に巻き込まれる。 幸い、二人は軽い
けがですむが、彩也子の額にうすい傷跡が残る。
彩也子が久美香のことを書いた「翼をください」という詩が新聞に掲載される。
すみれは、菜々子と光稀に、彩也子の詩と二人の娘の写真を自分のブログへの掲載
を依頼する。 やがて、三人は車いす利用者に売り上げを寄付するブランド「クララ
の翼」を設立。すみれの制作する、天使の翼をモチーフにしたストラップが話題になる。
さらに、光稀の大学時代の友人が編集部にいる人気女性誌「FLOWER」でも取り上げ
られる。 しかし、三人の女性と二人の娘に対する中傷が降りかかる、、、。
そして、過去に起きた殺人事件が彼女らに暗い影を落とす、、、、、、。
著者のミステリーは、薄曇りのような世界観の作品が多く、読後感が爽快というわけ
ではない。 この作品の主人公の女性三人も、友人といえる関係ではなく、一人ひとり
の心の内は今にもダークサイドに落ちそうで、誰にも感情移入できなかった。
それにしても、登場人物は、脇役も含めて、めんどくさい人間ばかり。 まともなのは
二人の娘くらい。 でも、これがリアルなのか、考えさせられた。
いつもながら、作品の構成力で読者を牽引するチカラはすごい。 で、古本屋で著者
の作品を見るたびに、つい手を伸ばしてしまう。
2016年「山本周五郎賞」受賞作。 オススメ度:8

コメント  物語のおわり (湊 かなえ著、朝日文庫)   作品の紹介 

山陰の小さな山間の町のパン屋さんの娘、中学三年生の絵美。 毎朝、パンを買いに来る
高校三年生の公一郎と出会い、読書の喜びを知り、小説を書き始める。 北海道大学に
進学した公一郎との遠距離恋愛を実らせ、卒業後、地元の高校の理科の教師となった公一郎
と婚約。 その直後、中学時代の同級生から人気作家、松木流星のアシスタントに誘われる。
両親も公一郎も反対するが、絵美は自分の本を出す夢をあきらめきれなかった。 しかし、
黙って家を出た絵美を公一郎が駅で待ち構えていた。
結末が書かれていない絵美の物語「空の彼方」の原稿を、舞鶴発小樽行きのフェリーの船内で
智子は萌という中学生から渡される。 智子は35歳。 妊娠三か月で癌が発覚し亡き父との
思い出の旅を思い出し北海道に旅する途中だった。 「空の彼方」は、やがて智子からプロ
カメラマンになる夢をあきらめた30歳の拓真、自転車でひとり旅をする大学生の綾子、娘の
アメリカ行きを受け入れられない水木、証券会社で仕事一筋に生きてきた42歳のあかねへと
手渡されていく、、、。
人生の岐路に立たされ、北海道をひとり旅する男女は、「空の彼方」の結末を自分の人生と
照らし合わせ、それぞれの結末を想像する、、、。
そして、物語の主人公、絵美と公一郎も、それぞれの思いを胸に北海道を訪れていた、、、。
着想と構成が秀逸なお話。 40年以上の時を経て明かされる「空の彼方」の結末にも納得。
ミステリーの要素を持ちつつも、登場人物たちの人生や葛藤を巧みに描いている佳作。
オススメ度:8.3

コメント  江ノ島西浦写真館 (三上 延著、光文社文庫)   作品の紹介 

百年続いた西浦写真館の館主、祖母、西浦富士子の遺品を整理するために江ノ島を
訪れた桂木繭。 有名作家である母、奈々美と同じようにクリエイターになりたくて
かつてはプロのカメラマンをめざしていた。
しかし、繭の思い上がり、軽はずみな行動により、彼女の撮った写真が幼馴染だった
俳優の琉衣を傷つけ、引退に追い込む。 4年前のこの事件以来、繭は写真を撮ること
をやめ、24歳になった今は、小さなメーカーの経理事務として働いていた。
祖母の残した写真館で遺品を整理するうちに、ひとつ年上の医学生、真鳥秋孝と知り
合う。 繭は、秋孝の祖母の写真の謎を解く。 このことがきっかけで秋孝も繭の
遺品整理を手伝うようになる。 しかし、秋孝には大きな秘密があった、、、。
「ビブリア古書堂の事件手帖」の著者の作品。 ミステリーの組み立ても高レベル。
亡くなっているのに、繭の祖母、富士子の存在感が物語に奥行きを与えていた。
しかし、登場人物たちの抱えている闇や傷が物語全体をグレーのトーンにしていて。
主人公に感情移入できないのが残念。 オススメ度:8.1

コメント  勇者たちへの伝言 (増山 実著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「いつの日か来た道」。
50歳の放送作家、工藤正秋。 四年前に離婚、子どもはいない。 仕事も徐々に
減ってきた。 工藤は、ある日、阪急神戸線、西宮北口駅の手前で「次は、いつ
の日か来た道」という車内アナウンスを耳にする。 西宮北口駅で降りた工藤は、
西宮球場跡地に建つショッピングモールにある「阪急西宮ギャラリー」から42年
前に意識だけがタイムスリップする。 気がつけば、そこは、阪急対西鉄の試合
が行われている西宮球場。 小学3年生の自分と35歳の父がいた、、、。
試合後、工藤は、父とかき氷を食べながら、父に自分の意識は42年後から来た
こと、自分は今50歳であること、父は14年後49歳で亡くなることなどを告げる。
工藤の話を信じた父は、結婚前に付き合っていた安子という女性の話を始める。
安子は在日韓国人で北朝鮮に移民として渡っていった。 父との話を終えた工藤
の意識は現在に戻る、、、。
そして、父とかつてかき氷を食べた食堂の今は亡き店主息子から一通の手紙を
受け取る。 それは50年前に北朝鮮に渡った安子から工藤の父に宛てた長い長い
便りだった。 手紙には、北朝鮮に渡ってからの安子の波乱の人生がていねいに
綴られていた、、、、、、。
リーダビリティーは高いと思う。 けど、話がちょっと広がりすぎてて、キモが
つかみにくかった。 あと、タイムスリップを物語の味付けととるか、別の何か
現実的なしかけでもよかったんではないかととるか、悩むところ。
とはいえ、後半の北朝鮮の描写は圧巻。 想像以上の悲惨さ。 ほんとうにこんな
思いをした人が何万人もいたとは。 オススメ度:8.1

コメント  本屋さんのアンソロジー (大崎 梢編、光文社文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー」。
大崎梢さんが「本屋さんをモチーフにした短編」を9人の作家にリクエストして
できた短編集。 大崎さんの作品も含めて計10編を収録。
誉田哲也さん、宮下奈都さん、坂木司さんなど本屋さんを愛する作家のみなさん
が執筆。 商店街、駅近、空港などにあるいろんな本屋さんが舞台。
十人十色の作品集。 作風が違うのはもちろんのこと、話の中で書店や本、書店員
が占める比重はさまざま。 ミステリー系のお話あり、恋愛小説もあり。
けれど、どれも肩の凝らない佳作ばかり。 本好きの人にはお勧めの一冊。
本作の10人の作家のうち、7人の作家の作品を読んだことがあった。
個人的には、誉田哲也さんの作品に「ストロベリーナイト」の姫川刑事が出てきた
のが受けた。 編者の大崎梢さんはデビューまで13年間、書店員の経験あり。
オススメ度:8

コメント  クローバー・レイン (大崎 梢著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

大手出版社の若手社員の奮闘を描いた「千石社シリーズ」の第二作。
工藤彰彦は千石社に入社七年目の29歳。 書籍の文芸部門に異動して三年目。
ある日、彰彦は出版社のパーティーで酔った作家、家永嘉人を介抱し、自宅
まで送る。 家永の家に泊まった彰彦は、家永が書き上げたばかりの原稿、
「シロツメクサの頃」を読み、心の底から感動。 即座に家永に出版したい
と告げる。 家永は原稿を彰彦に託すが、大手の千石社からは出せないと半ば
あきらめていた、、、。
家永は24歳でデビューし、現在、52歳のベテラン。 デビューの数年後に
一時期、脚光を浴びたが、今では、世間から忘れ去られた存在だった。
彰彦は、「シロツメクサの頃」の作中で使われている、家永の娘、冬実の
詩の使用許可を得るべく、彼女のもとに向かうが、冬実は使用許可を出さ
なかった。 社内でも、編集長のOKが出ない。 先輩社員からもあきらめた
ほうがいいと忠告される、、、。
やがて、編集長のOKが出て、営業部の先輩や後輩のサポートもあり、難関の
出版検討会議も通過。 出版が決定する。 さらに冬実が詩の使用許可を出す。
さらに、営業部の後輩、若王子の強力なプッシュや有名作家が新聞で「シロ
ツメクサの頃」を取り上げてくれたおかげで重版が決まる、、、。
「千石社シリーズ」の他の二作と違って硬派な作品。 エンタメ色薄め。
同じシリーズとはいえ、他の二作は違う出版社の作品なので、書き分けたのか。
主人公のまっすぐさと情熱は伝わってくるのだけど、ちょっと優等生すぎるかも。
第一作「プリティが多すぎる」のブックレビューは こちら
第三作「スクープのたまご」のブックレビューは こちら。  オススメ度:8

コメント  花咲舞が黙ってない (池井戸 潤著、中公文庫)   作品の紹介 

計7編の連作短編を収録。 バブル崩壊から10年後、1990年代後半のお話。
東京第一銀行本部事務部の臨店指導グループの花咲舞。 代々木支店時代の上司、 
相馬とコンビを組み、支店の問題点を調査する毎日。 積極的で正義感の強い舞。
温厚で優しいが、自分より肩書が上の行員には頭が上がらない相馬。
相馬の制止を振り切って舞が中央突破し、トラブルを解決していく。
主要取引先の倒産により、東京第一銀行の業績が悪化。 ライバル行の産業中央
銀行との合併が決まる。
合併準備委員会で劣勢に立たされる中、またしても主要取引先の不正会計、東京
第一銀行の隠蔽という問題が発生。 舞と相馬は、複雑な社内政治、派閥争いの
波に翻弄される、、、、、、。
主人公、花咲舞の愚直な正義感、思い切りのよさは、読んでて気持ちがいい。
キャラクターに爽快感があり、話のテンポもいい。 だけど、著者の「銀行総務
特命」を読んだときにも思ったのだけど、私は銀行で働くのは無理。
花咲舞と相馬の活躍を描いた前作の「不祥事」(2004年刊行)は2014年ドラマ化。
本作は2016年に読売新聞で連載。 作中に産業中央銀行員の半沢直樹も登場。
オススメ度:8.2

コメント  書店員の恋 (梅田 みか著、日経文芸文庫)   作品の紹介 

大手書店チェーンの渋谷店で働く翔子、26歳。 恋人の大輔はフレンチレストラン
のシェフになるのが夢だが、ファミレスでのバイトを2年続けている。
翔子の働く書店の新店長、山崎は、翔子を文芸を中心としたフロアのチーフに指名。
山崎の指示で「ケータイ小説」フェアに取り組む翔子。 本好きでありながら、ケー
タイ小説を読んだことのなかった翔子だったが、チーフとしての初仕事に真摯に取り
組む。 やがて翔子の推した、青木譲二の恋愛小説がヒット。 フェアも大成功に
終わる。 青木は35歳、歯科医が本業で、翔子に感謝の意を伝えるべく、翔子の働く
書店でサイン会を開催。 その後も、仕事と称して翔子にアプローチをかける。
少しずつ青木に惹かれていく自分を自覚する翔子だったが、、、、、、。
お仕事小説よりも恋愛小説の比重が高め。 若い女性向けの作品という印象。
それにしても、自分は本屋さんの話が好きだな、と改めて思った。
オススメ度:7.9

コメント  大仏男 (原 宏一著、実業之日本社文庫)   作品の紹介 

芸能事務所預かりという正式タレントではないお笑いコンビのカナ(23歳)と
タクロウ(25歳)。 二人は事務所を追い出される崖っぷちの状態。
勝負ネタである霊能者ネタを極めるため、霊能者の研究を始める。 さらに、
カナがタクロウを霊能者「大仏卓郎」に仕立て上げ、代々木の路上で無料霊能
相談をしたところ、ネットで大評判に。 続く秋葉原での霊能相談も成功。
そこに、二人が所属する芸能事務所の元バイト、マモルが現れる。
マモルのプロデュースにより、事務所を開設。 大仏卓郎は、政界、財界、
芸能界であっという間に評判になるが、、、、、、。
ちょっと視点の違う物語を書かせたら一流の著者が放つエンターテインメント
小説。 読者はいつしかカナ、タクロウ、マモルの保護者のような視点でハラ
ハラしながら三人の霊視ビジネスを見守ることに。 リーダビリティーもOK。
オススメ度:8.1

コメント  尾根を渡る風 (笹本 稜平著、講談社文庫)   作品の紹介 

「駐在刑事」シリーズの第二作。 表題作を含む計5編を収録。
警視庁捜査一課の警部補、江波 淳史は、取り調べ中に容疑者が服毒自殺をした
責任をとらされ、奥多摩にある青梅警察署の駐在所所長に左遷される。
しかし、豊かな奥多摩の自然に心を癒され、地元住民の温かさに触れ、登山の
魅力にとりつかれる。 捜査のサポートをしてくれる愛犬プールとも出会い、
地元の図書館司書の遼子に好意を感じ、この地に骨を埋めてもいいと考え始めて
いる。 そんな中年警察官、江波の活躍を描いた警察小説。
ベテランミステリー作家の作品だけあって、安定感があり、どの短編も質が高い。
元刑事の駐在が、捜査一課時代の後輩、南村と協力して事件を解決していくプロ
セスもいい。 あわせて、奥多摩の山々が物語に奥行を持たせているのもよし。
2014年、テレビドラマ化。  シリーズ第一作のブックレビューはこちら
オススメ度:8.1

コメント  リカーシブル (米澤 穂信著、新潮文庫)   作品の紹介 

中学一年生のハルカ。 父が会社の金を横領して失踪。 父の再婚相手の継母と
異母弟のサトルとともに寂れた地方都市、坂牧市に引っ越してくる。
新しい町でハルカは三つの謎に遭遇する。 ひとつめは、弟のサトルが急に未来
のことを語り始めたこと。 ふたつめは、町に伝わるタマナヒメの伝説。 タマ
ナヒメは未来を予言し、人々を救うために何度でも生まれ変わるという。 そして
タマナヒメの願いを聞き届けた人は、その後、死を迎える。 三つめは、この町
にかつて高速道路を誘致しようとした際の報告書が紛失、報告書をまとめた大学
教授が謎の死を遂げたこと。
やがて、ハルカにタマナヒメ伝説を教えた中学校の教師、三浦が交通事故を起こす。
警察は自損事故として処理するが、三浦は命を狙われたとハルカに告げる。
続いて、サトルが行方不明になる。 ハルカは一連の謎を解明するために、単身
ある行動に出る、、、、、、。
現実感がない印象を持ったまま読み進めていくうちに静かに話が終わっちゃった
感じ。 もうちょっと盛り上がりが欲しかった。 オススメ度:7.8

コメント  最良の嘘の最後のひと言 (河野 裕著、創元推理文庫)   作品の紹介 

世界的なIT企業、ハルウィンが「4月1日に年収8000万で超能力者をひとり採用
する」という告知を出す。 二万人の応募者から最終審査に残った超能力者は7名。
未来を予知する男。 ふたつの物質の場所を入れ替える男。 物質のコピーを作り
出せる少女。 さまざまな種類の能力を備えた7人が3月31日の夜に採用通知を奪い
あう最終審査に挑む。
大学生の市倉は、幼馴染の超能力者、仲秋を探す目的でこの企画に応募。
参加者の日比野という少女に誘われ、タッグを組むことに。
市倉と日比野は、タッグを組んだ別のペア、穂積と聖沢ら他の参加者と騙しあい、
虚々実々の駆け引き続ける、、、。
制限時間ぎりぎりまで繰り広げられる共謀、嘘、欲、勇気に彩られた心理戦、頭脳
戦。 ノンストップの一気読みのリーダビリティーはあった。 トリックもよい。
けど、話がやや複雑。 オススメ度:8.1

コメント  つれづれ、北野坂探偵社 1 (河野 裕著、角川文庫)   作品の紹介 

シリーズ第一作。 サブタイトルは「心理描写が足りてない」。
神戸の異人館街近くの北野坂にある佐々波探偵舎。 2階が探偵事務所で、1階が
カフェ「徒然珈琲」。 探偵事務所の所長兼カフェオーナーは、佐々波蓮司。
佐々波探偵舎と同じフロアに暮らす作家、雨坂続。 ペンネームは朽木続。
佐々波は雨坂の元担当編集者。
高校3年生、小暮井ユキが佐々波探偵舎に「一年前に亡くなった親友の奈々子が
好きだった本を探してほしい」という依頼でやってくる。
佐々波には、奈々子の幽霊が見えていた。 幽霊が見える、という佐々波の特殊
能力を生かし、雨坂が謎をストリー仕立てで推理し、ユキの依頼を解決したかに
見えたが、事態は意外な展開を見せる、、、、、、。
奈々子がユキについた嘘、ユキの過去のトラウマを、編集者、佐々波とストーリー
テラーである雨坂の独特の連携プレイでクールに紐解いていく。
物語の世界観、主人公二人の掛け合い、謎解きのスタイルがユニーク。
クセになる人も多いかも。 オススメ度:8.1

コメント  つれづれ、北野坂探偵社 2 (河野 裕著、角川文庫)   作品の紹介 

シリーズ第二作。 サブタイトルは「著者には書けない物語」。
大学生になった小暮井ユキが「大学の演劇サークルの部室に出る幽霊の謎を解いて
ほしい」という依頼を佐々波に持ち込む。
幽霊騒ぎは、演劇サークルの部長の狂言だった。 しかし、佐々波と雨坂の二人は、
人気脚本家が残した未完成の脚本を完成させ、その劇に出演するはめになる。
二人を一連の騒動に巻き込んだのは、大学を彷徨う幽霊「レイニー」だった。
レイニーは、演劇サークルのゴーストライターであり、佐々波と雨坂が探し求める
「紫色の指先」に会う方法を知っている、と告げる。
かくして、二人は、未完成の脚本の謎解きを開始する、、、、、、。
事件の解決と並行して描かれる佐々波と雨坂の11年前の出会い。 高校生だった
二人が出会ってまもなく、雨坂は交通事故に巻き込まれ、6年間、昏睡状態に陥る。
その事故で雨坂の姉、姪のノゾミ、そして佐々波が慕う大学教授が命を落とす。
6歳だったノゾミは幽霊となるが、母と会えずにいた、、、。
この巻の中心は未完成の謎解きだけど、謎の幽霊「レイニー」、雨坂の姪、ノゾミ
の幽霊、そして、二人がずっと探し続けている「紫色の指先」など、次巻以降に持ち
越しの謎がずらり。
第一作同様、独特の世界観。 幽霊が出てくるお話だけど、ファンタジー色がそれほど
強いわけではなく。 幽霊は、ふつうのミステリーとは違うテイストの味付けみたい
な存在かな。 オススメ度:8.1

コメント  つれづれ、北野坂探偵社 3 (河野 裕著、角川文庫)   作品の紹介 

シリーズ第三作。 サブタイトルは「ゴーストフィクション」。
小暮井ユキの部屋に雨坂の姪、ノゾミの幽霊が現れる。 ノゾミは11年ぶりに海岸
から離れることができたが、今度はユキから離れられなくなる。
佐々波は、知人の小説家、里見青から「12年前に亡くなった姉、麻衣子の描いた絵
を探してほしい」という依頼を受け、雨坂、ユキ、ノゾミとともに里見の住む洋館
に向かう。 それは、11年前にレイニーに導かれ、佐々波と雨坂、雨坂の姉、ノゾミ、
教授が車で向かった洋館だった。 洋館に向かう途中の交通事故で雨坂の姉、ノゾミ、
教授を失った佐々波には、忌まわしい場所だった、、、。
洋館で里見青とともに書評家の叔父、カラスが一行を出迎える。
里見の住む洋館でさっそく捜査を始めた佐々波は、スズメや人形、スピーカーから
「この屋敷から出ていけ」と警告を受ける。 続いて、里見の姉、麻衣子、祖母、
洋子の幽霊、そして、里見青の過去の幻まで姿を現す。 しかし、里見の姉と祖母
の幽霊の言動は、青の記憶と大きくかけ離れていた、、、。
佐々波は、根気よく青に寄り添い、幽霊の言動の矛盾を解き明かしていく、、、。
ノゾミが舞台に出てきたのはいい印象。 ユキとのコンビで終盤に活躍。
だけど、この巻のゲストである青のキャラは、感情移入できなかった。
トリックはよかったけど、せつないお話。
この巻の雨坂の出番は少なめ。 佐々波がメイン。 終盤、「紫色の指先」のことが
少しだけ語られるが、読者には、あいかわらず謎のまま。 青の叔父、カラスの正体
も謎のまま。 オススメ度:8.1

コメント  つれづれ、北野坂探偵社 4 (河野 裕著、角川文庫)   作品の紹介 

シリーズ第四作。 サブタイトルは「感情を売る非常な職業」。
5年前、出版社に入社して2年半の佐々波は、編集部で働いていた。 大学の文芸
サークル時代からの恋人、萩原春と大学卒業と同時に同棲を始める。 春はフリー
の校正者。 仕事に追われながらも、佐々波は春との生活に温もりと幸せを感じて
いた。 しかし、帰省先の京都で春が事故で亡くなる、、、。
その直後、7年弱昏睡状態だった雨坂が目を覚ます。 雨坂はさっそく小説を書き
始める。 雨坂が交通事故で昏睡状態に陥る前から彼の小説の才能を評価していた
佐々波は、雨坂の担当編集者になることを切望していた。 雨坂が書いた原稿を
読み始めた佐々波のもとに、春の幽霊が現れ、校正を始める。 春は「紫色の指先」
に出会ったことを告白する、、、。
雨坂の作品「トロンプルイユの指先」は、佐々波の勤める出版社の新人賞を受賞する。
春の死、雨坂の覚醒から5年後の現在、佐々波と雨坂は、書評家のカラスに「紫色
の指先」の正体を問い詰める。 そして、その正体が明らかになり、雨坂の姉、
香苗も「紫色の指先」の中にいることがわかる、、、。
いよいよ明らかになった「紫色の指先」の正体。 春が亡くなった理由が「紫色の
指先」に出会ったことだという設定がすごかった。 そして、その理由の先に雨坂
も連なっているであろう、という暗示にも物語の奥行きの深さを感じた。
第四巻で物語の世界観が一気に広がった印象。 これまでの三巻よりも圧倒的に
おもしろかった。 オススメ度:8.3

コメント  つれづれ、北野坂探偵社 5 (河野 裕著、角川文庫)   作品の紹介 

シリーズ第五作。 サブタイトルは「トロンプルイユの指先」。
小暮井ユキは、ノゾミとはぐれ、雨坂のデビュー作「トロンプルイユの指先」の
世界に迷い込む。 そこは「紫色の指先」が作り出した世界であり、ユキは、
親友、奈々子の双子の兄、「ほっしー」やノゾミの母、香苗の幽霊に出会う。
そして「紫色の指先」である女性とも話をするが、彼女は自我を失くしたかの
ような存在だった、、、。
佐々波と雨坂は、ユキを救うため、レイニーを訪ねる。 レイニーは、かつて
雨坂続の義理の兄、雨坂聡一郎の才能に心酔していた。 聡一郎は、雨坂が
5年前に受賞した新人賞を未完の小説で17年前に受賞したが、その直後に自殺
していた。 雨坂はレイニーが彼に憑りつくという提案を受け入れる。
すると、レイニーに憑りつかれた雨坂とともに佐々波までもが、「紫色の指先」
が支配する世界に飛ばされる、、、。
「紫色の指先」の世界で、佐々波と雨坂は、ノゾミ、香苗、聡一郎、そして
佐々波の敬愛する長谷川教授の幽霊に出会う。 聡一郎は「紫色の指先」に読ま
せる「声」という小説を執筆していた。 雨坂も「トロンプルイユの指先」の
続編の執筆にとりかかる、、、。
佐々波は、ユキを現実の世界に戻すため、「紫色の指先」に憑りついてほしい
と請い、彼女もそれを受け入れる。 かくして、佐々波とユキは現実の世界に
戻るが、雨坂は「紫色の指先」の世界にとどまり、執筆を続けることを選択する。
第四巻から急展開した物語がさらに奥行きを深めた印象。 三巻までを助走と
とるか否かは結果的には微妙なところ。 三巻までとはかなり違う世界観だけど、
個人的には四巻、五巻のほうが好み。 次巻でいよいよ完結。 オススメ度:8.3

コメント  荒神 (宮部 みゆき著、新潮文庫)   作品の紹介 

元禄時代のお話。 陸奥の南端に位置する小藩、永津野藩。 山ひとつ隔てた所に
ある支藩の香山藩。 永津野藩で成り上がった、藩主の側近、曽谷弾正の人狩りが
原因で二つの藩の関係は良好とは言えない。
ある日、香山藩の仁谷村が一夜にして壊滅。 山を越えて命からがら逃げてきた蓑吉
を保護したのは、名賀村で暮らす、曽谷弾正の妹、朱音だった。
一方、香山藩の小日向直弥も、仁谷村に捜索に赴いた親友、達之介を案じ、仁谷村の
隣村、本庄村に向かい、逃げ延びた村人たちと出会う。
朱音が蓑吉から、直弥が村人から聞かされたのは、仁谷村を壊滅し、香山藩の捜索隊
を襲ったのは巨大な怪物ということだった。 それは、身体が蝦蟇、脚が蜥、尻尾
が蛇で、高速で移動し、人を食べる怪物だった、、、。
朱音は藩の砦に出かけた際に怪物に襲われるが、なんとか逃げ延び、怪物を探りに
来た直弥とともに本庄村に向かう。 本庄村で、朱音は自分が香山の出身で幼いころ、
明光寺で兄、曽谷弾正とともに育てられたことを知る。 朱音は直弥とともに明光寺
に向かう、、、。
一方、怪物は、永津野藩の名賀村を襲うが、香山出身の老人のおかげで攻撃をくい
止める。 藩の武士や村人の攻撃で怪物は倒れるかにみえたが、脱皮し、形態を変え、
山に戻っていく、、、。
明光寺で朱音は、明念和尚から、朱音と兄は、怪物「つちみかど」を作り出した特殊
な力を持つ一族の末裔であると知らされる。 ほどなく怪物を追って曽谷弾正も寺に
到着。 和尚は、能力者である朱音か弾正が、身体に呪文を書いて、怪物に食べられ
ない限り、怪物を倒すことはできないと告げる、、、。
660ページの大作。 単なる怪物譚ではなく、朱音と兄の宿命、怪しい脇役たちの
躍動、そしてミステリーの要素。 いろんな要素を緻密に構成し、物語が複雑に散漫
にならずに書き上げる筆力はさすが。 ラストはせつないが、救いがあった。
リーダビリティーも高次元の佳作。 オススメ度:8.3

コメント  うずら大名 (畠中 恵著、集英社文庫)   作品の紹介 

東豊島村の名主、吉之助は、村組頭の六郎とともに辻斬りに襲われたところを、有月と
左源太、鶉の佐久夜に助けられる。 十数年前、吉之助は、有月、左源太とともに、長男
ではない自分たちの将来について語り合った仲だった。 しかし、吉之助は名主である兄
が亡くなり、跡を継ぐ。 そして、有月は、播磨の多々良木藩、五万五千石の藩主となる。
今は、三十路にして早や隠居し、前藩主として、家臣の左源太、愛鳥の鶉、佐久夜とともに
気ままに暮らしていた。
再会を機に、吉之助は有月の調子に合わせているうちに懇意になる。 ついには多々良木藩
に五十両を貸し出し「大名貸し」の仲間入りを果たす。
その直後、吉之助は、再び、命を狙われるが、有月に助けられる。 しかし、大名貸しの
豪農が次々に命を奪われていた。 有月は、吉之助、左源太とともに、その謎を解き明かす。
そして、策をめぐらし、ついに犯人を突き止める、、、。
ミステリーとしては高水準。 犯人の動機にも納得。 鶉の佐久夜、有月のキャラも立って
いると思う。 だけど、やっぱり、この作者は「まんまこと」シリーズみたいな人情話や
「しゃばけ」シリーズのようなファンタジー×人情話のほうが似合ってる気がする。
オススメ度:8.1

コメント  さくさくかるめいら (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

「居酒屋ぜんや」シリーズの第四作。 計五編を収録。
「ぜんや」の女将、お妙、28歳。 お妙に想いを寄せる旗本の次男、只次郎、22歳。
お妙が雇った店の用心棒、浪人の重蔵が気になる只次郎。
そんな中、只次郎は、一家の生計を支える、鶯が美声を放つよう飼育するのに欠かせ
江戸一番の美声の鶯、ルリオの後継に頭を悩ませていた。 家飼いの鶯は子をなさない
のが常識とされていたが、ルリオの子が五羽生まれる。
料理をテーマにした時代小説の名作「みをつくし料理帖」とはひとあじ違う味わい。
こちらのほうが軽快な作風かな。 あいかわらず安定感のある仕上がり。
シリーズ累計20万部突破にも納得。
第三作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  つるつる鮎そうめん (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

「居酒屋ぜんや」シリーズの第五作。 計五編を収録。
「ぜんや」の用心棒、重蔵が、かつて無頼の徒の集団「黒狗組」に属し、五年前の
打ち毀しを先導していたという疑惑が持ち上がる。
まもなく、ふとした会話がきっかけで、お妙の父で医者の佐野秀晴、亡き夫の善助が
菱屋の隠居と懇意だったことが明らかになる。 菱屋ばかりでなく、「ぜんや」の常連、
俵屋、三河屋、三文字屋までもがお妙の父、亡夫と深く関わっていた。
そして、お妙は、「ぜんや」で近江屋が育てる珍種のめだかを見て、そのめだかが水死
した夫の口から出てきたことを思い出す、、、。
お妙の亡き夫、善助の死を巡る謎、そして重蔵の過去にまつわる謎、ふたつの謎がじわ
じわとあぶり出された巻。 ミステリーの謎解きは次巻に持ち越し。
オススメ度:8.1

コメント  あったかけんちん汁 (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

「居酒屋ぜんや」シリーズの第六作。 計五編を収録。
菱屋の隠居の采配で、俵屋、三河屋、三文字屋、そして只次郎が近江屋と重蔵の捜査を
開始する。 近江屋と善助はかつて炭薪問屋の河野屋で奉公していたが、十五年前に
店は倒産していた。 さらに五年前に重蔵が扇動したと目される打ち毀しにより、材木
問屋を営んでいた近江屋が大儲けをしたことが明らかになる。
一方、只次郎は、兄が家督を継ぐにあたり、縁談を勧められる。 しかし、お妙にぞっ
こんの只次郎が従うはずもなく。 ルリオたち鶯とともに家を出る決意をする。
只次郎は、ついでに重蔵の動きをさぐるべき、強引に重蔵の部屋で居候をはじめる。
やがて、重蔵は、お妙の夫、善助の死体を川に流したことを告白する。
重蔵は、十年近く前、上野の国で下級武士だったが、罷免され、江戸に流れてきた。
用心棒生活を続けているうちに、近江屋の用心棒となり、善助の死体の始末を命じられる。
一度は近江屋のもとを離れるが、連れ戻され、近江屋の策略により「ぜんや」の用心棒に
落ち着く。 重蔵は、近江屋からお妙を見張り、不穏な動きがあれば報告するよう命を
受けるが、逆に、お妙を近江屋から守るべく、目を光らせていた。
只次郎は、重蔵から近江屋に偽りの情報を流し、近江屋を誘き出す手筈を整える。
狙い通り「ぜんや」にやってきた近江屋から善助殺害の真相が語られる、、、。
ついに明らかになった善助の死の真相、そして、お妙の父、佐野秀晴の開国思想。
近江屋が執拗にお妙を見張ったのは、秀晴と懇意だった旦那衆が、只次郎が取り持つ縁で
「ぜんや」に集まり始めたことがきっかけだった。
いつも通り、数々の料理は出てくるけど、謎解きに重点が置かれた巻。
オススメ度:8.1

コメント  来春まで (諸田 玲子著、新潮文庫)   作品の紹介 

「お鳥見女房」シリーズの第七作。 計七編を収録。
将軍家の鷹場の巡検、鷹狩の準備、鷹の餌となる鳥の生息状況を調べる役目、御鳥見役の
女房、珠世と矢島家の家族、まわりの人々を描いた物語。
養子に出た珠世の次男、久之助が家督を継ぎ与力となる。 長男、久太郎と恵以夫婦には
女児が生れるが、恵以の父、和知は遠い山形で息を引き取る。 夫、伴之介は隠居を決意
する、、、。
二年半ぶりに読んだけど、やはりこのシリーズのクオリティーは高い。
ページを開いたとたん、あたかも「おかえりなさい」と語りかけてもらえるような温かさ
があふれる作品。 主人公、珠世のまっすぐな心根、「来るもの拒まず」の精神が読者の
心を打つ。 そして著者の作品に対する愛着を感じる。 潔く時を進めていくのもいい。
第四作〜第六作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.2

コメント  極道大名2 (風野 真知雄著、新潮文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「窮虎、将軍を噛む」。
久留米藩主、有馬虎之助に恨みを持つ八代将軍、吉宗は、次々に手を打つ。
まず、大岡忠相を南町奉行とし、やくざを根絶やしにすると宣言。 虎之助だけでなく、
配下の町太、周次も命を狙われる。 さらに、虎之助の母、辰が営む丑蔵一家の駕籠屋の
商売を妨害すべく、座頭勝が配下に置く鉄吉一家に駕籠かきの練習を始めさせる。
辰之助は、藩の江戸家老、有馬多門や南町奉行所の筆頭同心、境の力を借り、巻き返しに
出る。 そして、座頭勝を名乗る紀州忍者の首領、川村一心斎を罠にはめる、、、。
新シリーズ第一作に続き、ドライブ感、リーダビリティーともに秀逸。 吉宗の攻撃に
対し、防戦一方ではなく、知恵と勇気と男気で反攻に転じる虎之助の心意気がいい。
第一作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  封神演義(上) (安能 務訳、講談社文庫)   作品の紹介 

紀元前十一世紀、商の第三十一代の王、紂王は、ニョカ宮参詣の際、不敬な詩を詠う。
天女、ニョカは、紂王の行いに怒る。 翌年、佞臣、費仲と尤渾の策謀により、紂王は
冀州侯、蘇護の娘を宮中に召し上げようとするが、蘇護は反旗を翻す。 紂王は四大
諸侯の北伯崇候虎と西伯姫昌に討伐を命じる。 蘇護は先発した崇候虎に勝利する。
しかし、姫昌からの手紙による説得で、愛娘、妲己を紂王に差し出す決意をする。
蘇護が妲己を紂王のもとに送り届ける途中、ニョカの手下、千年の女狐が妲己に乗り
移る。 妲己は謀略により、皇后に紂王暗殺の罪を着せ、死に至らせる。 皇太子と
弟は都を脱出。 紂王の遣わした武将に捕獲されるが、仙人たちに救われる。
崑崙山で修行していた姜子牙(太公望)は、洞主で闡教の教主、元始天尊から「下山し
周を助け商を滅ぼすせ」と命じられる。 四十年ぶりに下山した姜子牙は七十二歳に
なっていた。
義兄弟、宋異人のもとに身を寄せ、占いを始めると評判となるが、妲己の手下である妖、
琵琶精が美女に姿を変えて姜子牙の元を訪れる。 美女の正体を見破った姜子牙は紂王
と妲己の前で琵琶精を仮死状態にする。 姜子牙に復讐せんと妲己は紂王をそそのかし、
司天監に任用させる。
七年間の禁を解かれ、姫昌は西岐に帰還する。 庇護者であった宰相の比干を妲己に
殺され、姜子牙は西岐に向かう。 一年後、姫昌は、姜子牙を宰相として迎え入れる。
姜子牙に仕えていた武吉も将軍となる。 姜子牙は、まず、姫昌に親征を促し、十万の
軍を率いて四大諸侯の一人で悪名高い崇候虎の城に向かう。 姜子牙は崇候虎の弟、
崇黒虎を味方につけ、難なく崇候虎を討つ。 しかし、翌日、姫昌が息を引き取り、
息子の姫発(武王)が跡を継ぐ。
表の話は姜子牙が周を助けて商を討つ、いわゆる「易姓革命(殷周革命)」のお話。
そして一方で仙界の闡教と截教の争いが描かれている。 すなわち、闡教の教主で
ある元始天尊とその弟子、崑崙十二大仙が千五百年に一度の逃れられぬ劫として人を
殺さねばならないことになり、易姓革命に関わる闡教徒、截教徒、人道の中から三百
六十五位の神を封じる「封神」の儀式を行うことになった。 天命により、この封神
の執行者として選ばれたのが姜子牙であるという流れ。
横山光輝さんの漫画「殷周伝説」のもとになった物語。 漫画(全22巻)を先に読んで
いたので、さくさく読めた。 妖怪や仙人は出てくるものの、上巻はそれほど違和感なく。
この時代の中国の歴史に興味のある人には有名な紂王と妲己の専横と、姫昌と太公望
の出会いが話の中心。 オススメ度:8.1

コメント  封神演義(中) (安能 務訳、講談社文庫)   作品の紹介 

妲己の陰謀で妻と妹を失った王宮の将軍、黄飛虎は、臣下二千の兵を率いて、朝歌の都
を去る。 仙人のナタク、仙界で修行中の姫昌の息子、雷震子、黄飛虎の息子、黄天化に
助けられ、黄飛虎一行は西岐にたどり着く。 武王は姜子牙の勧めに応じ、黄飛虎を周の
将軍として任用。 姜子牙は、王宮の大師、聞仲が送り出した晃田、晃雷兄弟もあっさり
投降させる。 聞仲は、次に、崑崙で仙術を修めた張桂芳に十万の大軍を預け、西岐征討
を試みるが、返り討ちにあう。 策に窮した聞仲は、崑崙山の仙道、闡教と対立関係にある
截教に属する九竜島の四聖に助力を請う。 一方、姜子牙も新たに金タク、木タクという
仙人を仲間に迎え、四聖を討つ。 聞仲は、ついに切り札の魔家四将を西岐に遣わす。
強敵、魔家四将を迎え、籠城を続ける姜子牙のもとに、仙界から楊ゼンが駆けつける。
西岐軍は、楊ゼンの活躍で魔家四将を倒すが、都から聞仲自身が三十万の大軍を率いて
進軍する。 西岐に向かう途中、聞仲は、黄花山の四天王を手下に加える。
いよいよ姜子牙と聞仲の戦いが幕を開ける。 緒戦は、四天王のひとり、辛環に手こずる。
その直後、姫昌の子で、終南山玉柱洞の雲中子のもとで修業をしていた雷震子が西岐軍に
加わる。 次の戦いで姜子牙は聞仲に圧勝する。 しかし、截教の一聖九君が聞仲のもとに
参陣。 対西岐軍用に組み上げた符陣「十絶陣」で戦いに挑む。 一聖九君の符陣は強力で
姜子牙もあやうく魂を抜き取られそうになるが、太上老君の助けで一命を取り留める。
闡教側は崑崙十二仙、陸圧が参陣。 截教側にも新たに趙公明、三仙姑が加わる。
そして、ついに闡教の頂点に立つ元始天尊、さらに太上老君までもが西岐の地に降り立つ。
これにより、截教側の「十絶陣」はすべて破られる。
姜子牙は聞仲との最終決戦に挑む。 敗走した聞仲は雲中子に仕留められる、、、。
聞仲に代わって、ケ九公が娘のケ蝉玉とともに西岐に着陣する。 やがて陣に加わった道士
の土行孫はケ蝉玉に一目ぼれし、武王と姜子牙の暗殺を試みるが失敗。 師匠の懼留孫に
諭され、周に帰順する。 土行孫は姜子牙、懼留孫の助けを借りてケ蝉玉と夫婦になる。
さらにケ蝉玉の説得によりケ九公も帰順する。
業を煮やした紂王は、妲己の父、冀州侯蘇護を西岐に差し向ける。 蘇護はもはや周の勢い
は止められないと考え、投降しようとするが、将である鄭倫が反対する。 そこへ截教の
道士、呂岳が四人の弟子と加勢に訪れるが、西岐軍に撃退される。
その後、崑崙で修行した韋護が西岐軍に加わる。 韋護と同様、紂王の第二皇子、殷洪も
下山し、西岐城に向かうが、申公豹の口車に乗せられ、商軍の蘇護のもとに参陣する。
そして、新たな仙人、馬元も商軍に加わるが、西岐軍に敗れ、殷洪も討たれる。 そして
蘇護は周に投降する。 商は新たに張山を西岐討伐を命じる、、、。
姜子牙と聞仲の戦いが始まったとたん、登場人物が急に増えてしまい、強敵を倒しても、
より強い敵が出てくるというパターン。 登場人物を把握するのがたいへん。
なんだか上巻と違うテイストの話になってしまった感じ。
横山版「殷周伝説」では、両軍に加わる人物の経緯や背景(闡教と截教の敵対関係など)を
簡略化して、戦い、それも人間同士の戦いに重点を置いて描いている感じ。
オススメ度:8

コメント  封神演義(下) (安能 務訳、講談社文庫)   作品の紹介 

崑崙で修行していた商の皇太子、殷郊も下山し、西岐城に向かう。 しかし、またしても
申公豹がそそのかし、殷郊は商軍に加わる。 申公豹は、さらに羅宣、劉環の二人の仙人を
商軍に送り込む。 羅宣、劉環は、西岐城に火を放つが、天女、竜吉公主が駆けつけ、劉環
を討つ。 金タク、木タク、ナタクの父、李靖が西岐城に参陣する途中に羅宣を討つ。
やがて、張山、殷郊も討たれるが、洪錦が率いる次なる西岐征討軍が着陣する。 洪錦は、
竜吉公主に敗れるが、婚姻を司る仙人に導かれ、竜吉公主と夫婦になる。
周の武王は、姜子牙を東征大将軍に任じ、ついに朝歌の都に向かって六十万の軍を進める。
一方、商は、孔宣麾下の新たな西岐征討軍を進発させていた。 両軍が激突すると、孔宣の
術によって、李靖、金タクなどが捕らえられ、黄天化が命を落とす。 しかし、孔宣は西方
の仙人によって元いた地に連れ戻される。
続いて截教の火霊聖母が西岐軍を苦しめるが、闡教の広成子に討たれる。 このことが原因
で截教を束ねる通天教主は、闡教に戦いを挑む決意をする。
進軍の途中、ケ九公、黄天祥が討たれるが、西岐軍は、五関の最初の水関を突破。 界牌
関に向かうが、截教の通天教主の命を受けた多宝道人が待ち構えていた。 闡教側は教主の
元始天尊、崑崙の十二大仙が集結、太上老君まで姿を現す。 さらに西方の二聖、接引道人、
準提道人も駆けつけ、截教の陣を破り、界牌関を落とす。 続いて穿雲関に向かうが、かつて
西岐軍との戦いで四人の弟子を討たれた截教の道士、呂岳が復讐のために再び姿を現す。
そこに 闡教の道徳真君の弟子で、商の上大夫だった楊任が現れ、呂岳を討つ。
穿雲関を破った西岐軍は潼関に進軍する。 緒戦で蘇護が討たれが、潼関を落とし、最後の関、
臨潼関に向かう。 しかし、その途中、またしても截教の多宝道人が陣を構えて行く手を阻む。
またしても闡教の元始天尊、十二大仙、さらには西方の接引道人、準提道人が着陣。 截教側
も通天教主が姿を現す。 截教の陣に飛び込んだ洪錦と竜吉公主の夫婦が討たれる。
いよいよ戦いが闡教と截教の最終決戦の様相を帯び始めたとき、太上老君と鴻鈞道人が現れ、
元始天尊と通天教主に戦いをやめさせる。 これにより千五百年ぶりの「封神」の儀式は終わり
を告げる。 臨潼関を抜いた西岐軍は諸侯との会盟の地、孟津に向かうが、商の将軍、張奎に
黄飛虎、土行孫とケ蝉玉の夫婦、そして盟友の崇黒虎が討ち取られる。 張奎をはじめとする
商の攻め手は「梅山の七怪」と呼ばれる妖怪であり、楊任、黄紀、黄明、鄭倫らが討たれる。
西岐軍は、天女ニョカの力を借り、七怪を討ち取る。
遅れていた東伯侯も孟津に到着し、ついに八百諸侯による会盟が行われ、周の武王が盟主に
推戴される。 姜子牙は百六十万の兵を従えて商の都、朝歌に進軍する。
朝歌城で紂王は進退窮まり、妲己は妹分の二妖とともに脱出するが、楊ゼンらに捕らえられ、
天女ニョカの前に引き出される。 元々は紂王に復讐するためにニョカの命を受けた三妖だった
が、ニョカは三妖の傍若無人ぶりを許せず処刑を命じる。 紂王も宮殿に火をつけ、ついに
その生涯を閉じる、、、。
姜子牙は天子となった武王とともに西岐に帰国、戦いで死んだ魂魄を三百六十五の神を封じる
封神の儀を執り行う。
論功行賞で斉の国に封じられた姜子牙は、武吉だけを供にして旅立つ、、、。
中巻に続いて、周対商、闡教対截教の戦いの連続。 次から次へと新たな武将、仙人が登場
するが、もっと戦いの数を集約して登場人物を絞って描いたら、万人受けして、文学作品と
しての価値も高まっていたと思う。 500ページ×3巻の1,500ページの大作だけど、半分くらい
の長さでギュッと凝縮して書いてほしかった作品。 オススメ度:8

コメント  本能寺の変 431年目の真実 (明智 憲三郎著、文芸社文庫)   作品の紹介 

世間で知られている「本能寺の変」の定説を検証し、誤りをあぶり出し、蓋然性の高い
推理を試みた歴史捜査ドキュメント。
これまでの定説のもとになった文献の矛盾や間違いを科学的に検証していくプロセス
は興味深い。 なるほど歴史は勝者の側で記されていくので、秀吉が書かせた文献を
鵜呑みにしてはいけないとか、本能寺の変から百年以上後に書かれた文献に信憑性が
あるのか、などなど、序盤から独自の検証が進められていく。
大家の小説やNHKの大河ドラマも定説寄りに描かれているから、日本人のほとんどは
「本能寺の変」と「明智光秀」に同じようなイメージを持っているのだと改めて納得。
「信長が光秀の盟友、長曾我部元親を攻めようとしていた」、「信長が信忠ら息子たち
へ重要な領土を与え、光秀は地方に移封されようとしていた」、「信長が中国侵攻を
目論んでいた」という論点は、本能寺の変の定説のひとつである怨恨説よりも説得力
があった。
著者は、さらに「信長が光秀に本能寺で家康を暗殺させようとしていた」、「家康と
細川藤孝が光秀と共謀して信長暗殺を企てていた」、「秀吉は光秀の謀反の計画を
事前につかんでいた」と論を進めていく。 この三つの説に対しては、肯定派と否定派
に分かれるのではと思う。 前述の三つの説と比較して説得力が弱いという印象。
著者は明智光秀の子孫。 「本能寺の変 427年目の真実」に4年間の調査結果をもとに
加筆、修正した作品。 オススメ度:7.8

コメント 読書感想文2019-(4)へ   コメント(6)へ    コメント T.Tのページへ    コメント トップページへ