コメント HOME コメント り ん コメント かなう コメント Mama コメント T . T コメント Family


コメント コメント コメント コメント   コメント コメント コメント コメント コメント コメント

読書感想文2019 part 4

「読書感想文2019」 part4は、7月〜8月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  空飛ぶ広報室 (有村 浩著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

航空自衛隊幕僚監部広報室に勤務する空井大祐二尉、29歳。 すべての戦闘機パイロット
の憧れである「ブルーインパルス」への転属の内示を受けていながら、不運にも交通事故に
巻き込まれ、足を負傷し、入間基地で総務の担当となるも表情や感情のない人間になって
しまっていた。 一年後に異動した市ヶ谷の広報室は、室長の鷺坂一佐、ベテラン広報マン
の比嘉一曹はじめ、ひと癖もふた癖もある個性派ぞろいで、空井の仕事の環境は一変する。
帝都テレビのニュース番組「帝都イブニング」のディレクター、稲葉リカ、26歳。 入社
以来、記者として報道の第一線で懸命に働いてきたが、伸び悩み、異動となったばかり。
自衛隊嫌いの彼女が自衛隊の特集を制作することになり、鷺坂は担当として空井を指名する。
パイロットの夢をあきらめた空井。 記者失格の烙印を押されたリカ。 同じような境遇に
ありながら、全く意見が合わない二人。 しかし、広報室の隊員たちの献身的な仕事ぶりを
目の当たりにするうちにリカの自衛隊に対する意識も変わり、空井とリカの心の距離も次第
縮まっていく、、、。
やがて、空井も広報マンとして成長し、大きなプロジェクトを成功させる。 そして、リカ
は空井を主人公にした空自広報室のドキュメンタリーを完成させる。
一年後、空井とリカはそれぞれ新しい部署に異動になり、半年後、東日本大震災が発生。
空井の勤務地である松島基地が被災する、、、、、、。
空井とリカが新しい職場で成長し再生する過程を軸に、空井の同僚たちの矜持、奮闘、恋愛、
そして自衛隊の内側を丹念に描いた読みどころ満載の傑作。
ラブコメが得意な著者の作品にしてはめずらしく、空井とリカの恋愛要素は抑えめ。
本作は当初2011年夏に刊行予定だったが、東日本大震災の発生を受け、著者が刊行の1年延期
を出版社に依頼。 最終章「あの日の松島」を新たに書き下ろし、2012年夏に刊行された。
「ダ・ヴィンチ」の「ブック・オブ・ザ・イヤー2012」小説部門:第1位。 「直木賞」候補作。
550ページの大作。 2013年ドラマ化。 オススメ度:8.6

コメント  ゼロの激震 (安生 正著、宝島社文庫)   作品の紹介 

太平洋建設の技術者、木龍は、地下50kmまで掘削しマントル熱を利用し地熱発電を実現
する発電所建設のリーダーを務めていた。 しかし、掘削機のトラブルにより部下が
事故の犠牲となり、木龍は責任をとり退社。 高校教師に転職するが、PTSDに悩まされ、
離婚する。 事故から9年後、発電所が完成。 時を同じくして、地下のマグマの移動に
よるガスの発生や火災により、足尾、富岡で大量の犠牲者が出る。
木龍が大学で地球物理学を学んだ恩師、氏次は、政界のフィクサー、奥立の依頼を受け、
マグマの動きを予測。 マグマが南下を続ければ東京で未曽有の災害が起こると予測する。
氏次は、木龍に、政府が進める災害対策プロジェクトに参加するよう要請。 内閣危機
管理監の武藤のもと、木龍は、秩父でマグマの南下を止める掘削工事を開始する。
しかし、マグマの動きが予想以上に速く、坑内の火災により多数の工事関係者が犠牲となる。
マグマの移動は止まらず、噴火により埼玉西部、続いて新宿が壊滅状態になる。
やがて、木龍は、マグマの移動の原因を突き止める。 それは、奥立と首相が秘密裏に
進めたプロジェクトによる人災だった、、、。 氏次は、このままでは関東は全滅、東日本
にも甚大な被害が出ると予測。 木龍はマグマの移動をくい止めるべく、かつての仲間と
最後の賭けに出る、、、、、、。
全編を覆いつくす恐怖感とリーダビリティーが秀逸。 話がちょっと専門的で難しいところ
もあったけど、やっぱり、このシリーズは、おもしろい。
パニックサスペンスの人気シリーズ「ゼロシリーズ」の第三作。 オススメ度:8.2

コメント  青の数学 (王城 夕紀著、新潮文庫)   作品の紹介 

数学好きの高校一年生、栢山が偶然出会った女子高生、京(かなどめ)香凜は、二年連続で
「数学オリンピック」を制した天才だった。 香凜の「数学って、何?」という問いに、栢山は
困惑する、、、。
栢山はやがて数学好きの若者が集うサイト「E2」で決闘を重ね、腕を磨く。 そして、全国の
精鋭が集まる合宿でライバルたちと出会い、競う中で、香凜に対する答えを探していく、、、。
「数学はキライでもこの一冊は好きになる」と帯に書いてあったけど、やはりこの作品は数学が
好きな人に勧めたい。 個人的には数学好きの主人公に感情移入できなかった。 ま、若い人
向けの作品というのもあったけど。
「本の雑誌」2016年度「オリジナル文庫」部門:第1位。 オススメ度:8

コメント  たった、それだけ (宮下 奈都著、双葉文庫)   作品の紹介 

大手商社の海外営業部長、望月正幸。 40歳を少し越え、妻、可南子との間に娘、ルイが
生まれたばかり。 しかし、仕事で贈賄の容疑がかかり、愛人にリークされ、失踪する。
物語は、六章建てで、望月の愛人、妻、姉、続いて、小学校三年生になったルイの担任、
高校一年生になったルイ、最終章は、ルイの同級生の視点で描かれている。
望月を知る人物の話を通して、彼の過去や犯罪の動機をあぶり出す話かと思いきや、、、
そういう物語ではなく。 物語は前半三章と後半三章で大きく変化する。 前半三章は読み
進めるのがつらいけど、後半三章は少しずつ光が見えてくる展開。 オススメ度:8.1

コメント  出版禁止 (長江 俊和著、新潮文庫)   作品の紹介 

長江俊和は、雑誌に掲載禁止となったるルポタージュの原稿を手にする。
題名は「カミュの刺客」。 執筆者はフリーライターの若橋呉成。
それは、著名なドキュメンタリー作家、熊切が不倫関係にあった秘書、
新藤七緒と心中した事件の真相を探る内容だった。
若橋は心中で生き残った新藤七緒の独占インタビューを開始。
やがて、若橋は、事件が心中ではなく、熊切が映画で批判した大物政治家、
神湯による殺人ではないかという疑いを持つ。
取材を進めるうち、熊切と神湯との関係が明らかになり、自身の疑念が
間違いだったと思い始めた若橋は七緒に神湯の刺客ではないかと問い詰める。
七緒は、若橋に、熊切の死が殺人ではなく、心中であったことを証明する
ビデオテープを見せ、若橋は七緒の殺人説を取り下げる。
まもなく若橋と七緒はいっしょに暮らし始めるが、、、、、、。
意外な事実の連続に翻弄される若橋とともに読者も翻弄される流れ。
そして最後は読者が若橋に翻弄されるという秀逸な構成。
リーダビリティーばつぐんの作品。 オススメ度:8.3

コメント  愚者のエンドロール (米澤 穂信著、角川文庫)   作品の紹介 

「氷菓」に続く人気の「古典部シリーズ」の第二作。
神山高校の古典部のメンバーは1年生の4人のみ。 古典部は2年F組が文化祭用に
制作した映画を見せられる。 それは廃墟で殺人が起こったシーンで途切れていた。
脚本担当が倒れ、撮影が中断し、困っていた2年F組の女帝、入須は、古典部に協力
を要請する。 それは三人のクラスメイトが考えた映画のクラスを審査すること
だった。 しかし、古典部のメンバーは三人の推理をすべて却下。
文化祭が迫る中、業を煮やした入須は、古典部の折木奉太郎に映画の続きを推理
することを依頼。 奉太郎は入須に自らの推理を披露し、映画は無事完成する。
しかし、古典部の残りのメンバー三人は、完成した映画を観て違和感を感じる。
謎解きには納得したけど、まわりくどいお話だなという印象。
第一作「氷菓」のブックレビューはこちら。  シリーズの特設サイトはこちら
オススメ度:7.8

コメント  真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者 (大沼 紀子著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

シリーズ第5作(全6作)。
希実が一年半ぶりに再会した母は入院中だった。 しかも、病気の母を看護するのは
希実の父、門叶 樹。 樹は希実が生まれる前に希実の母、律子と別れ、今は家庭を
持っていた。 そんな中、希実と暮林、弘基は、樹の兄、榊に出会う。
榊と樹は、大企業の社長の息子であるが、今は会社との関りを持たずにいた。
兄弟の父の死後、会社の実質的なオーナーである二人の母は、希実を養女にし、遺産
を相続させたいと願う。 榊は希実に申し出を受けるように迫る。
時を同じくして、暮林の店の大家である美和子の伯父の会社が経営危機に陥る。
希実は榊に養女になる条件として、美和子の伯父の会社を助けるよう依頼する。
その直後、希実の母、律子が誘拐される、、、、、、。
希実のほんとうの父親は誰なのか? 榊は希実の味方なのか敵なのか?
律子と樹の間に昔、何があったのか? 美和子と律子はなぜ疎遠になったのか?
物語のあちこちに謎が散りばめられ、律子と美和子の過去も丹念に描かれた巻。
シリーズ第4作のブックレビューはこちら。 550ページの大作。 オススメ度:8.1

コメント  真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 (大沼 紀子著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

シリーズ第6作にて最終巻。 これまでの5作とはうってかわって連作短編集の体裁。
物語は前作の5年後。 希実、暮林、弘基と周囲の人たちのその後を描いている。
第一話は班目と多賀田のお話。 舞台はシンガポール。 第二話はソフィアとこだま
のお話。 第三話は「ブランジェリークレバヤシ」を辞めた弘基のお話。 舞台は
フランス。 第四話が大学卒業を間近に控えた希実のお話。 舞台はニューヨーク。
そして最終話が暮林のお話。
この最終巻を読んだ人はけっこうとまどうのでは? 時間がいきなり5年経過してるし、
連作短編のかたちにして、一人(もしくは二人)の人物にフォーカスしちゃってるし。
いままでの巻みたいに、みんなで協力して問題解決みたいな一体感がないし。
作者なりの終わり方だったんだろうけど、長い長いエピローグを読まされた感じ。
オススメ度:8

コメント  スクープのたまご (大崎 梢著、文春文庫)   作品の紹介 

幸運にも難関大学に合格し、さらに幸運にも大手出版社「千石社」に入社できた信田日向子。
入社1年目はPR誌で充実した日々を送っていたが、2年目の4月から週刊誌「週刊千石」に異動。
しかも、ハードな「事件班」に配属となる。 聞き込み、張り込み、クレーム電話の応対など
1年目とは大違いの毎日。 同じ会社の中でも「週刊千石」の編集部で働くことに嫌悪感を抱いて
いた日向子だったが、意外とまじめに本が作られていること、上司や先輩たちが意外に温かいこと
に驚く。 そして、奮闘、苦労、失敗を乗り越え、週刊誌の記者として階段を上り始める。
六章建ての連作短編のような構成。 テンポがよくて読みやすい仕上がり。
前半三編は新人記者、日向子の奮戦エピソード。 このまま日向子の成長ストーリーが続くと思い
きや、後半三編は少し成長した日向子が同僚たちと事件の謎解きに挑むミステリーに。
千石社のファッション雑誌に配属された若手男性社員の奮闘を描いた「 プリティが多すぎる」が
「千石社シリーズ」の第一作。 そして本作が第三作。 オススメ度:8

コメント  バッドカンパニー (深町 秋生著、集英社文庫)   作品の紹介 

計7編を収録した連作短編集。
超やり手の美人社長、野宮綾子が率いる人材派遣会社「NAS」。
社員は、元自衛隊 空挺部隊の武闘派、有道了慈、元公安刑事の頭脳派、柴志郎をはじめ、
百戦錬磨のつわものたち。 野宮は金のためならどんなに危ない仕事を引き受ける。
ヤクザの用心棒、テロリストの捕獲、裏カジノへの潜入などなど。 中でも有道は毎回毎回
生命の危機にさらされるが、間一髪、野宮が救いの手を差し伸べる。
冒険活劇あり、ミステリーあり、コメディータッチの掛け合いあり。 いろんな要素が
からみあっているのがプラスに出たリーダビリティーばつぐんの一作。
この著者の作品は、いつも思うのだけど、自然に映像が浮かんでくる。 この作品も映画化
したらおもしろいのでは、と思った。 オススメ度:8.2

コメント  デッドクルージング (深町 秋生著、宝島社文庫)   作品の紹介 

日本政府が積極的に脱北者を受け入れるようになって九年。 日本で暮らす脱北者は三千
を超えている。
倉田晃は、極右の活動家、磯部の命を受けて、武装した仲間とともに池袋のクラブを襲撃。
多数の死傷者を出し、脱北者で偽ドル札づくりの天才、劉雲明を拉致する。
この事件で銃撃戦に巻き込まれ、脱北者の売春婦、ヒギョンが命を落とす。 警視庁外事
課の管理官、八木は、ヒギョンの姉、ファランが復讐に動くのではないかと睨み、監視を
つける。 八木は、ファランが有能な元工作員であるという情報を得ていた。 しかし、
八木は監視を振り切ったファランに襲われ殺される。 ファランは、さらに磯部の部下の
情報屋の華を襲い、磯部の居場所を聞き出す。 やがて磯部もファランが八木と華を襲った
ことをつかむ。 その直後、ファランが磯部を襲撃する、、、。
劉をアメリカに渡す手はずを整えた晃たちを、汪仁生率いる中国系の特殊部隊、大久保機関
が急襲。 晃は仲間を三人失うものの、なんとか逃げのびる。 しかし、救助に来たはずの
磯部の部下である同僚たちに襲撃される。 晃は二人の仲間とともに劉を連れて逃走する。
磯部を人質にとったファランは、劉を連れた晃と晴海で会うことになる。 しかし、晃の
動きは汪に把握されていた、、、。
そして、夜の晴海で、晃、ファラン、汪の三つ巴の壮絶な戦いが始まる、、、、、、。
一気読みせずにはいられない圧倒的なリーダビリティー。 スーパー・バイオレンス小説。
いったい何人の人間が死ぬんだというくらい修羅場の連続。 だけど、登場人物がみんな
存在感があって、いきいきしていた。 著者のファンなら絶対に「買い」の一作。
オススメ度:8.3

コメント  花の鎖 (湊 かなえ著、文春文庫)   作品の紹介 

地方都市のさらに奥にある小さな町で暮らす20代の3人の女性の今を交互に語りながら、
物語が進んでいく。 六章建てで、各章が「花」、「雪」、「月」の節で構成されている。
三年前に両親を事故で亡くし、祖母もガンで入院中、さらに講師として働いていた英会話
スクールが経営破綻し、金銭的に困っている梨花、27歳。 毎年、母に豪華な花束を贈って
くれたKにお金を借りようと思うが、連絡先がわからずにいた。
高校を卒業し、伯父が役員を務める建設会社に就職した美雪。 伯父の勧めで三年前、
二十歳で同じ会社の営業職、和弥と結婚。 しかし、和弥は、伯父の息子で、親友でもある
陽介が立ち上げた建築事務所に誘われ、転職する。
花専門のイラストレーターの紗月、25歳。 自宅でイラストの仕事をし、公民館で水彩画
教室の講師をしているが、それだけでは食べていけず、町の和菓子屋「梅香堂」でバイト
をしている。 ある日、短大時代のルームメイト、希美子から、夫の浩一を助けてほしい
と懇願されるが、頑なに拒絶する。
梨花は、花屋の息子で同級生の健太の協力により、Kに手紙を送ることに成功。 Kに指定
されたホテルで待っていたのは、Kの息子とKの会社の元専務だった、、、。
美雪の夫、和弥は、地元に建設計画が持ち上がった香西路夫の美術館の設計コンペに参加
することを決意。 美雪は、和弥の後輩、森山とともにサポートするが、、、。
紗月は、公民館で働く前田から希美子の伝言を聞く。 そして、希美子とともにかつて憧れて
いた山岳同好会の先輩、倉田を偲ぶため、前田とともに八ヶ岳に向かう、、、。
三人の女性の話は、同じ町を舞台にしていながら、各話の接点は「梅香堂」のきんつばくらい。
あとは、どの女性の話にも、地元で創作活動をした過去を持つ画家、香西路夫と彼の作品、
「未明の月」が出てくる。 四章までは、そんな感じで読み進めていたら、五章で三つの話が
つながりはじめ、三人の女性の関係が明らかになっていく。 そして、登場人物たちのつながり
が、あらゆる謎が、終盤にむけて明かされていく。
四章まで三つの小説を並行して読んでいるような感じだったけど、どの話もリーダビリティー
が秀逸で一気に読めた。 そして五章からじわじわと各話が結びついていく展開もみごと。
個人的には、救いのある話だとは思わないけど、物語の構成もミステリーの質も超一級品だと
思う。 名作の多い著者の作品の中でも「告白」に並ぶインパクト。
2013年ドラマ化。 オススメ度:8.4

コメント  がん消滅の罠 (岩木 一麻著、宝島社文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「完全寛解の謎」。
日本がんセンター 呼吸器内科の医師、夏目が余命半年と診断した肺腺がん患者、小暮麻里が
保険金3,500万円を受け取る。 しかし、保険金受け取り後、がんが消え去る。 小暮に保険金
を支払った大日本生命の調査部に勤める森川は、大学の同級生であり、小暮の主治医でもある
夏目と調べるが、保険金詐欺など不審な点は見当たらない。 さらに、小暮、森川の同級生で、
日本がんセンターの研究医、羽島も小暮の血清を検査するが、原因はわからずじまい。
小暮以外に、夏目が担当した他の3人の患者も、余命宣告を受け、保険金を受け取った後、がんが
消滅していたことがわかる、、、。
夏目、羽島、森川は、小暮が最初に受診した湾岸医療センターを調べ始める。
この病院の理事長は、夏目の大学院時代の恩師、西條だった、、、。
夏目らは、小暮麻里のがん消滅の謎の核心にたどり着くが、他の3人の謎は解き明かせなかった。
やがて、夏目と羽島は、西條と会談することになるが、、、、、、。
精緻に練られたトリックであるとは思う。 けど、万人受けする作品なのか、、、やや疑問。
医学系に興味 × ミステリー好きの人は絶賛するでしょう、きっと。
2016年「このミステリーがすごい」大賞受賞作。 オススメ度:8

コメント  これは経費で落ちません! (青木 祐子著、集英社文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「経理部の森若さん」。 四章建ての連作短編のような体裁。
森若沙名子、27歳、彼氏なし。 中堅の石鹸・入浴剤メーカーに入社以来、経理一筋。
そこそこ美人なのに、人付き合いが悪く、たんたんと仕事をする地味目のOL。
そんな沙名子の同僚たちがさまざまなトラブルをもちこみ、彼女を巻き込んでいく。
コメディータッチな中にあたたかさ満載の、肩のこらないお仕事小説。 
シリーズ化され6巻まで発売中、累計40万部突破。 オススメ度:8

コメント  これは経費で落ちません! 2 (青木 祐子著、集英社文庫)   作品の紹介 

計4編を収録。
営業部の太陽との交際を始めた沙名子。 事務的に仕事を進める彼女に、広報、
総務の女性がトラブルの種を持ち込む。 はたまた、営業の愚痴を聞かされたり、
製造担当の不正に気付いてしまったり。
イントロダクション的な要素の強かった1巻より、仕事に踏み込んだ内容か。
軽いミステリーのフレーバーもグッド。 1巻よりおもしろかった。
オススメ度:8.1

コメント  舞台 (西 加奈子著、講談社文庫)   作品の紹介 

自意識過剰の葉太、29歳。 子どもの頃から、人の目を気にして生きてきた。
自分を演じ、時には精神をすり減らし、今では無職。 小説家だった父に反発し
生きてきたが、その父が残した遺産でニューヨークを訪れる。
一週間の一人旅。 しかし、初日にセントラルパークでバッグを盗まれ、持ち金
12ドルに。 すぐにでも日本領事館に駆け込むべき事態なのに、自意識過剰が
じゃまをして、空腹を抱えてニューヨークの街をさまよう、、、。
ふつうの人には理解不能のめんどくさい心の持ち主が主人公。 ほとんどの読者が
感情移入できないであろうふしぎな小説。 でも、あまちゃんだった男が苦難の
末にほんの少し変われたのかなと思えるのが救い。 オススメ度:7.8

コメント  晩夏に捧ぐ (大崎 梢著、創元推理文庫)   作品の紹介 

「成風堂書店事件メモ」シリーズ第二作の「出張編」。
駅ビルの書店「成風堂」で働く杏子のもとに、故郷の長野に戻った元同僚、美保
から手紙が届く。 手紙には、美保が務める老舗書店「まるう堂」に幽霊が出る
ようになり、杏子と多絵に長野に来て謎解きをしてほしいと書かれていた。
杏子と多絵は、夏休みに「まるう堂」を訪れる。 幽霊騒ぎは、27年前に地元の
作家、嘉多山成治が弟子小松秋郎に刺殺された事件に関係あるのではと噂されて
いた。 杏子と多絵は、27年前の事件の関係者を取材し、事件の核心に少しずつ
近づいていく、、、。
27年の事件の謎解きが中心の物語。 書店が舞台ではなく、殺人事件、それも昔
の事件の謎解きなので、シリーズの他の二作とはかなりテイストの違う巻。
独立した作品としてはクオリティーの高いミステリーであると思うけど、この
シリーズのファンが読みたいのは、やはり「成風堂」が舞台のお話でしょう。
シリーズ第一作のブックレビューはこちら
シリーズ第三作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8

コメント  キーパーズ (美奈川 護著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「碧山動物園日誌」。
小学校の遠足で訪れた碧山動物園でアムールヒョウの「ガイア」に一目ぼれした鳥羽晴樹。
「ガイア」の飼育員、三園と親しくなり、動物園の飼育員をなると決意した晴樹は、猛勉強
の末、大学は理学部生物学科に進み、晴れて碧山動物園の飼育員となる。
退職した三園に代わって「ガイア」の担当となった武中に見守られ、ペンギンとカピバラの
担当として働き始めて三年目を迎えたが、飼育員から事務職への異動願いを出す、、、。
そんな矢先、晴樹は向山理央に出会う。 理央は高校を卒業し、北海道から上京したばかり。
碧山動物園の売店のアルバイトとして働く彼女は動物の言葉が理解できた、、、。
理央は、動物園内で起こるトラブルを次々と解決。 理央は「ガイア」の檻を訪ねることを
日課にしていた。 やがて「ガイア」は老衰で最期のときを迎えようとしていた、、、。
題材の選び方がユニークな著者が描いた、ちょっとユニークなお仕事小説。
派手さはないけれど、しみじみとしたやさしさ、あたたかさがあふれ出す作品。
オススメ度:8

コメント  水族館ガール2 (木宮 条太郎著、実業之日本社文庫)   作品の紹介 

千葉湾岸市役所から市の水族館「アクアパーク」に出向し、イルカの担当として成長した
由香は先輩飼育員の梶と恋人になる。 由香は出向期間を終え、市役所に戻らず、アクア
パークに転籍する道を選ぶ。 一方、梶は人事交流プログラムにより、関西の名門水族館
「海遊ミュージアム」に出向する。
由香のもとに高校を出たばかりの新人、ヒョロこと兵頭が配属され、二年目の由香が教育
係となる。 一方、梶も、館長不在の混乱の中、たいした仕事を与えられず、不遇のスタ
ートとなるが、企画担当の咲子に助けられる。 そんな梶と咲子の仲を疑った由香は梶と
音信不通の状態になる。
やがて、由香はヒョロと新しいイルカライブを開発し、人気を博す。 そして、梶も館長
代行から認められ、重要な仕事を任せられるようになる。
そして、咲子のとりもちでよりが戻った由香と梶は、ふたつの水族館の共同プロジェクト
成功に向けて、力を合わせる、、、。
離れ離れになった由香と梶をどう描くのかと思って読み始めたけど、二人の成長を同時並行
で巧みに描き、リーダビリティーも秀逸。 前作の直球勝負もよかったけど、本巻は話の
スケールがアップして、好感が持てた。
シリーズ第一作のブックレビューはこちら。 オススメ度:8.3

コメント  いなくなれ、群青 (河野 裕著、新潮文庫)   作品の紹介 

人口2,000人の小さな島、階段島。 捨てられた人々が暮らす島。 魔女がすべてを
支配する島。 この島がどこにあるのか、住民たちは知らない。
住民たちは、いつの間にか、この島に連れてこられ、その間の記憶を失っている。
島から出ていくこともできない。 失ったものを見つけたら、島から出ていけるが、
島を出ていけた人は、ほんの一握りにすぎないらしい。
島の高校一年生、七草も三か月前にこの島に連れてこられた。 そして、ある朝、
中学二年生まで同級生だった真辺由宇に出会う。 真辺は三か月間の記憶をなくして
いた。 まっすぐな真辺はすぐにでも島から出ていきたいと訴える。
三年前までそうだったように、七草は真辺に振り回されるが、真辺から目をそらす
ことも、離れることもできない。 やがて、七草は、自分がなぜこの島に連れて来ら
れたのか、階段島の謎にたどりつく、、、、、、。
独特の世界観を持った作品。 ものすごく気に入ったというわけではないけど、なぜか
気になる、記憶に残る物語。 シリーズ化されているので、続編も読んでみようか。
「階段島シリーズ」の第一作。 2015年「大学読書人大賞」受賞。
「読書メーター」の「読みたい本ランキング」1位も獲得。
2019年映画化。 オススメ度:8.2

コメント  ころころ手鞠ずし (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

シリーズ第三作。 計五編を収録した連作短編集の体裁。
美人女将のお妙が神田花房町に店を構える「酒肴ぜんや」が舞台の人情話。
貧乏旗本の次男、林只次郎、大店「菱屋」のご隠居、酒問屋「升川屋」の若き主人、
喜兵衛と新造のお志乃、お妙の義姉、お勝など常連の人物造形が秀逸。
前二作同様、安定感ばつぐんのシリーズ。 お妙の身辺を探る謎の事件が全編を
通して扱われているが、本巻では解決に至らず。
シリーズ第一作、第二作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  ひとつ灯せ (宇江佐 真理著、文春文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「大江戸怪奇譚」。 計八編を収録。
成仏できない霊に憑りつかれた料理茶屋の隠居、清兵衛は、幼馴染の蝋燭問屋の隠居、
甚助に霊を払ってもらう。 死を恐れる清兵衛に、甚助は、それならもっと怖い話を
聞けばよいと百物語の集まりに誘う。
百物語の集まりには、甚助の他に四人の男、一人の女がいた。 男たちは、商家の隠居、
町医者、論語の私塾の主、奉行所の同心、女は一中節の師匠だった。
会で語られる話は、自分が見聞した話という決まりがあった。 話は怪談の類ではなく、
不可思議な現象にまつわるものが多かった。
会を楽しみにしていた清兵衛だったが、やがて、会の話よりも、生身の人間の残酷さ、
愚かさ、妬み、嫉み、ひがみの方がおそろしいと思い知らされる。
会の仲間、利兵衛は、商いがうまくいかないことで清兵衛や甚助を逆恨みし、会を除名
された後、息を引き取る。
やがて、清兵衛は、人知では理解できないふしぎなできごとに遭遇するようになる。
会で、論語の私塾を営む慧風が自殺した弟子に祟られていることを告白する。 甚助は、
清兵衛とともに、慧風を強い霊験を備えた旗本、内藤のもとに連れていく。 内藤は、
慧風が自殺した弟子の母の念に祟られていると告げ、母の慰撫を勧める。
北町奉行所の同心、反町は、導かれるように稲荷神社に出向き、社に取り込まれ、行方
不明となる。 清兵衛、甚助は、再び内藤に問題の解決を依頼。 内藤の力で、反町は
無事、現世に戻ってくる。
やがて、町医者の玄沢が労咳を患い、静養生活に入り、儒者の慧風が津藩に招聘され、
江戸を離れることになる。 そして、清兵衛が予期せぬ事態が次々と起こる、、、。
前半を読んでいると「ふしぎな話をする会の様子を連作短編のかたちで綴っていくのだな」
と思ってしまう。 しかし、中盤以降、物語は、一転して暗い雰囲気に包まれ、清兵衛
たち会の面々を巻き込む怪奇譚の性格を帯びていく。 そして、静かだけれど、背筋が
凍りつくような終焉を迎える。
熟練の著者がてがけた一級品の怪奇譚。 時代小説の名手たちが手がけた同様の佳作に
並ぶ完成度。 オススメ度:8.2

コメント  烏金 (西條 奈加著、光文社文庫)   作品の紹介 

算術家、丹羽九厘の教えを受けた浅吉は、金貸しのお吟が回収に困っている金を
借り手の問題を片付け、次々に回収していく。 計画的にお吟に近づき、雇われる
ことになった浅吉は、借り手の金銭的な問題を親身になって解決し、得意先を増や
していく。 しかし、悪徳な札差との間に問題が発生し、お吟は夜逃げ。 浅吉は
単身、知恵と胆力で危機を乗り切り、お吟は帰宅する。
やがて、浅吉は、浮浪児たちの集団に商いを教え、商売の元手を貸す。 子ども
たちの商いは軌道に乗るが、浅吉は、吉原に売られた幼馴染の女を身請けするため
お吟の金を盗もうとする。 お吟に追い出された浅吉は、吉原で袋叩きにされ、丹羽
九厘の世話になる。 そんな中、浮浪児の集団の年かさの少年がつかまり、奉行所に
連行される。 少年を助けるべく、浅吉は立ち上がる、、、。
物語終盤で浅吉がお吟に近づいたわけが明らかになり、大団円を迎える。
タイトルの「烏金」とは朝借りて夕方返すお金のこと。 オススメ度:8.1

コメント  ごんたくれ (西條 奈加著、光文社文庫)   作品の紹介 

十代将軍、家治、老中、田沼意次の治世、江戸時代後期のお話。 舞台は京。
京で頂点に立つ絵師、円山応挙の弟子、吉村胡雪こと彦太郎は、師匠のことを
悪しざまに罵る深山筝白こと豊蔵を殴ってケガをさせてしまう。
応挙に言われ、豊蔵のもとに謝罪に向かった彦太郎は、豊蔵の友人、池大雅と
妻、玉瀾の元を訪れ、意気投合する。 彦太郎が22歳、豊蔵が33歳の時だった。
十年後、彦太郎は、ひとかどの絵師となり、応挙の名代で地方で絵をかくことが
多くなっていた。 紀州、串本で滞在中、彦太郎は筆が進まずにいた。 しかし、
豊蔵と再会し、立ち直る。 やがて、豊蔵もようやく、その才を認められ、名が
知られるようになる。
その後、大火が京を襲う。 やむなく実家に帰省した彦太郎は、大坂の大店の
依頼で絵を描くことになるが、主人の後妻と駆け落ちし、所帯を持つ。
そして円山応挙が御所から受けた仕事を中心となって進め、兄弟子、源gととも
に応挙から後継者に指名される。
しかし、子どもを二人続けて亡くした彦太郎の妻は失踪し、師匠の応挙、兄弟子
の源gが続けてこの世を去る、、、、、、。
実在の絵師、曾我蕭白と長沢芦雪をモデルにした物語。 二人の関係はフィクション。
この作品を読んで、モデルとなった二人の絵を見て豊蔵と彦太郎の人物造形に納得。
人付き合いに難があるが、特異な画才に恵まれた豊蔵と彦太郎。
お互いに敬意を持ちながら、すなおに称えあうことができない。 親友として
同じ時間を共有するわけでもない。 それでも、互いに惹かれあう二人を巧みに
描いた、ちょっと変わった、二人の友情と成長の物語。
タイトルの「ごんたくれ」は、ごろつき、困り者という意味。
オススメ度:8.2

コメント  春秋戦国志(上) (安能 務著、講談社文庫)   作品の紹介 

前半は、鄭の上卿、祭足を軸に、斉、宋、魯などの駆け引き、争いを描いている。
後半は、斉の宰相、管仲が盟友、鮑叔ともに桓公を覇者にしたお話。
終盤に重耳が即位する前夜の晋が登場。
宮城谷昌光さんの「春秋名臣列伝」、「戦国名臣列伝」、陳舜臣さんの「小説十八
史略」など「史記」にまつわる、オムニバス本がすっかりお気に入りになった感。
とはいえ、やはり春秋以前と春秋初期の時代は、まだまだなじみが薄い。
本巻も、前半は、新鮮に読めた。 あと、宮城谷氏、陳氏の上述の作品と違い、
この巻は、祭足と管仲の二人にフォーカスし、時代を切り取っていた。
オススメ度:8.2

コメント  春秋戦国志(中) (安能 務著、講談社文庫)   作品の紹介 

管仲、鮑叔、桓公が死去し、斉は勢いを失くす。 代わって覇者たらんとした宋の
襄公も志半ばで楚の成王に敗れ、息を引き取る。
晋では重耳の異母弟、恵公(夷吾)が即位するが、秦の穆公に敗れ、病没。 穆公
が後ろ盾となり、重耳が晋の君主となり、文公と称する。
楚の成王は、中原に進出を試みるが、晋の文公が「城濮の戦い」において、秦、斉
との連合軍で楚を破り、覇者となる。
成王の二代後の楚の荘王は、即位しても政務を行わず、朝臣たちを油断させる。
三年後、政務を執った荘王は、半数の朝臣を罷免し、覇者への階段を駆け上がる。
荘王の死後、共王が即位するが、晋をはじめとする中原と力をつけ始めた南の呉の
両方に目を光らせる必要に迫られる。 はたして晋から軍備増強の教えを受けた呉
の開祖、寿夢が楚を攻めるが、在位中に決着を見ることはなかった。
楚の平王の時代、伍子胥が、太子建の息子、公孫勝を奉じて呉に亡命する。
父と兄を平王に殺された伍子胥は楚に復讐すべく、呉で地歩を固める。 やがて
王僚を暗殺し、王子光を即位させる。 王子光は闔閭と称し、孫武を将軍として
迎え、楚に侵攻する。 呉は楚に圧勝し、楚の昭王は隨に亡命する。
しかし、秦の哀公が楚に援軍を差し向け、闔閭の弟、夫概が呉に戻り、謀反、王を
称する。 闔閭はせっかく手に入れた楚の都を放棄し、呉にとって返す。 夫概は
楚に亡命、闔閭は、楚に代わり呉が南方の盟主になったと自負する。
やがて、病死した太子の長男、夫差が太子となり、伍子胥は太傅と宰相に任命される。
呉の南方の越では新たに即位した勾践が王を称する。 闔閭は自ら兵を率いて越に
攻め入るが夜襲を受け潰走。 その時に受けた傷で息を引き取る。
闔閭の後を継いだ夫差は越を攻め大勝、范蠡の勧めで勾践は降伏し、夫差の馬丁と
なる。 二年後、帰国を許された勾践はまず絶世の美女、西施を夫差のもとに送り
届ける。 伍子胥を疎ましく思い始めた夫差は伍子胥に自殺を命じる。
夫差は越の范蠡の企みに乗せられ、十万の大軍で斉と戦い、勝利をおさめる。
その勢いをかって、覇者となるべく、晋や周、魯との会盟をめざす。 夫差が会盟
に出かけている間に、勾践は呉を攻め、城を焼き打ちする。 この勝利の後、富国
強兵につとめた越は満を持して呉を攻め、滅亡させる。
春秋時代の有名な人物をリレー形式で紹介した巻。 上巻とうってかわって国も
人も入れ替わるが、国と国、人と人のつながりがストーリー仕立てにして書かれて
いるのでわりと読みやすかった。 オススメ度:8.3

コメント  春秋戦国志(下) (安能 務著、講談社文庫)   作品の紹介 

晋の分裂による韓魏趙の建国から秦の始皇帝による天下統一までの戦国時代を描いた巻。
魏は西門豹、呉起の活躍により強国となる。 しかし、宰相の陰謀により、呉起は魏に
見切りをつけ出奔し、楚の令尹(宰相)となる。 呉起は実績を上げるが、庇護者で
ある悼王の死をきっかけに、それまで抑えつけられていた公族、貴族に討たれる。
魏のホウ涓に罠に嵌められた兵法の天才、孫ピンは、斉の将軍、田忌に迎えられ、
威王のもと、斉の軍師となる。 十数年後、孫ピンは馬陵の戦いでホウ涓を破る。
身を寄せていた魏の宰相の死を区切りに商鞅は秦の孝公に仕え「変法」を実行する。
続いて商鞅は魏に侵攻し、勝利をおさめ、西河(黄河の西)の地を得る。
商鞅はその後も秦の要であり続けるが、孝公の死により失脚。 一旦は魏に脱出するが
魏で受け入れられず、秦に戻り、密告により捕えられ、処刑される。
韓は、申不害が昭侯のもとで宰相を務め、外国からの侵略を抑える。
趙では、蘇秦が「合従」を説き、秦では、蘇秦の友、張儀が「連衡」を説く。
蘇秦は楚を含む中原諸国の六国の合従を完成させる。 しかし、翌年、秦は斉、魏と
共に趙を攻め、勝利をおさめる。 一方、張儀は楚に赴き、斉との同盟を破棄させ、
秦との同盟を結ばせる。 しかし、これは斉と楚を分断する罠であり、秦は斉と組んで
楚に勝利する。
趙の武霊王は胡服令を発布。 中山国に軍を進め、滅亡させ、趙の版図に組み入れる。
斉の宰相、孟嘗君は、秦の昭襄王に請われ、秦の丞相となる。 しかし、二年後、暗殺
の企みを察知。 食客たちの助けを得て秦を脱出し、無事、斉に帰り着く。 斉で宰相
に復帰するものの、罷免、再任を経た後、魏の宰相となる。
燕は一旦滅亡するが、趙の力を借り再興する。 昭王は臣の郭隗の提言を容れ、他国
から有能な人材を募る。 やがて楽毅が燕の将軍となり、秦、趙、魏、韓の連合軍を
率いて、斉を攻め、滅亡の一歩手前まで追いつめる。 しかし、昭王の跡を継いだ恵王
は、楽毅を罷免。 楽毅は趙に亡命する。
趙では急に出世した上卿、藺相如に、武将の廉頗が敵愾心を燃やしていたが、その後、
廉頗が詫び、刎頸の交わりを結ぶ。
将軍、白起と丞相、魏冉の活躍により、秦の快進撃は続くが、昭襄王は、魏冉と宣太后
の専横に手を焼いていた。 そこに魏から亡命し張禄と名を変えた范ショが昭襄王に
策を献じ、魏冉と宣太后を追放、范ショが丞相となる。 范ショは、次第に言うこと
を聞かなくなった白起を自害に追い込むが、かつての勢いを失い、引退する。
趙の邯鄲の商人、呂不韋は、人質となっていた、秦の昭襄王の孫、子楚を秦の王位に
就けるべく投資を始める。 まもなく呂不韋が子楚に与えた趙妃が出産、しかし政と
名付けられたその男子は呂不韋の子だった。 呂不韋の工作が奏功し、やがて子楚は
秦の太子となる。 そして一年後、即位し、荘襄王と称する。 呂不韋は宰相となる。
三年後、荘襄王は病死。 太子だった十三歳の政が秦王として即位する。 九年後、
呂不韋は追放され、自害。 やがて、政の即位二十六年後、秦は中原六国を滅ぼし、
天下を統一、始皇帝と称した。 ここに春秋戦国時代は終わりを告げる。
中巻同様、たくさんの国と人とを描いているが、話が整理、関連付けられ、ストーリー
仕立てで語られているので、それほど苦労せずに読み進められた。
宮城谷氏、陳氏の本より、平易な語り口。 「史記」や「春秋戦国時代」を読み始めた
ばかりの人にはいいかも。 オススメ度:8.3

コメント  史記 武帝紀 五 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

蘇武は武帝の使節として匈奴の単于庭に向かうが、囚われの身となる。
降伏を受け入れず、北海の地に連行されるが、単身、極寒の地で生き延びる。
李広利は武帝に三万の軍を与えられ出撃するが、単于、且テイ侯の弟、頭屠の軍に
大敗し潰走する。  李広の孫、李陵も五千の歩兵を率い出撃。 且テイ侯の
息子、狐鹿姑の軍を相手に善戦するが、力尽き、投降する。 且テイ侯は李陵を
礼をもって遇する。 李陵は狐鹿姑と交流を重ねるうち、いつしか親愛の情を持つ。
司馬遷は、武帝の下問に対し、李陵を称え、腐刑の処分を受けるが、大史令から
中書令に昇格。 武帝の近くに仕えるようになり「史記」を書き始める。
やがて、李広利が中心となり、漢は二十万の大軍で匈奴に挑むが、頭屠、狐鹿姑に
一蹴される。 そして李陵が匈奴の降将として漢軍と戦っていたという情報が届く。
李陵を衛青、霍去病と重ね合わせて見ていた武帝は、自分を見失い李陵の一族を
処刑する。 李陵は漢に誤った情報を流した降将の李緒を斬る。 そして、ついに
匈奴の一員として戦うことを決意。 単于、且テイ侯の娘を娶り、将として兵を
率いることになる。 まもなく且テイ侯は息を引き取り、狐鹿姑が単于となる。
蘇武、李陵、司馬遷の三人の生きざまを描いた巻。 三人の描写が交互に現れ、
小気味よく物語が流れていく。 諫める臣を持たず、死を意識し始めた武帝と
懸命に生き抜こうとする三人の男たちとの対比が見事。
今までの中でいちばん読み応えのある巻かも。
第四作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.4

コメント 読書感想文2019-(3)へ   コメント(5)へ    コメント T.Tのページへ    コメント トップページへ