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読書感想文2019 part 2
「読書感想文2019」 part2は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
あなたへ (森沢 明夫著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
富山刑務所で木工の作業技官として働く、倉島英二、63歳。
15年連れ添った最愛の妻、洋子は末期がんで53歳の生涯を閉じる。
洋子の死後、倉島は「遺言サポートの会」というNPOに洋子からの二通の
手紙を見せられる。 一通はその場で受け取るが、もう一通は洋子の故郷
である長崎の港町、薄香で受け取らなければならないと知らされる。
倉島は「故郷の海で遺骨を散骨してほしい」という洋子の願いをかなえ、
洋子からの最後の手紙を受け取るべく、妻と旅を楽しむはずだったキャン
ピングカーで長崎をめざす。 途中、車上荒らしの元国語教師、杉野と
知り合い、共に旅を進める。 広島で出会った弁当の営業マン、南原に
薄香で散骨を依頼すべき漁師、吾郎を紹介してもらう。
薄香に着いた倉島はさらに新しい出会いをすることになり、、、。
設定も、人物造形も、展開も言うことなし。 一気読みの佳作。
2012年公開の映画「あなたへ」の原案をもとに小説化された作品。
著者の作品は三作目だけど、どれも人とのつながりのたいせつさを教えて
くれるあたたかい作品だと思う。 オススメ度:8.2
蛇行する月 (桜木 紫乃著、双葉文庫)
作品の紹介
計6編の連作短編をつなげた体裁の物語。
北海道 釧路湿原の近くに建つ新設校、湿原高校。 図書部の順子は卒業して就職
した和菓子屋の主人である20歳上の男の子どもを身籠る。 婿養子の男は離婚
ではなく、順子と駆け落ちする道を選ぶ。 順子は卒業から7年後、東京で男の
営むラーメン屋を手伝いながら子育てに励んでいる、、、。
物語は順子の図書部の同級生四人の女性、順子の駆け落ち相手の妻、そして順子
の母の六人に一話ずつ焦点をあて、1984年から2009年までの時代、女性たちの
生きざまを描いている。 順子が主人公の一編はないが、各編で登場し、話の
ブリッジのような役割を果たす。 雑誌「ダ・ヴィンチ」2014年1月号の「プラ
チナ本」に選ばれた佳作。 女性向きの作品という印象。 幸せな人が少ない
薄曇りのような世界観。 オススメ度:8.1
夢をかなえるゾウ (水野 敬也著、飛鳥新社)
作品の紹介
いい大学を出て、いい会社に入ったのに、満たされない男のもとに、ゾウの顔
を持つインドの神様、ガネーシャが現れる。 甘いものが好きで、ヘビースモー
カーで、なぜか関西弁を話すガネーシャは、とてもうさんくさい。
自分を変えたいのに、これまでことごとく失敗してきた男に、ガネーシャは一日
ひとつずつ課題を与えていく。 「トイレを掃除する」とか「一日何かをやめて
みる」とか、効果があるのかないのかわからない課題を達成していくうちに男は
少しずつ変わっていく、、、。
過去の偉人や現代の成功者の例を出しながら、自己改革と成功の法則を学んでいく
自己啓発エンターテイメント小説。 全編ギャグが満載で読みやすい。
ガネーシャは特別なことを言っているわけではないけど、成功への道筋はとても
論理的で説得力があった。 ベストセラーになったのも納得。 オススメ度:8.1
ランウェイ・ビート (原田 マハ著、宝島社文庫)
作品の紹介
山梨の洋装店の主人の孫、美糸、通称ビートは、身長150cmの高校1年生。 東京の
青々山学園高校に転校して早々、いじめられっ子の犬田、通称ワンダのファッション
を大改造して、一躍人気者になる。 クラスメイトのメイ、アンナ、そして人気モデル
の美姫、通称ミキティまでがビートとワンダから目を離せなくなる。
まもなく青々山学園は経営危機により廃校が決まるが、ワンダの発案で文化祭でファッ
ションショーを開催。 ビートのデザインした服を美姫が身に着けマスコミの話題に。
その結果、学校に巨額の寄付が寄せられ、あっさりと廃校の話がなくなる。
ファッションに目覚めたワンダは自分たちのファッションブランド立ち上げをビートに
持ち掛ける。 しかし、美姫がビートの父が勤めるアパレル会社のライバル企業のモデル
に起用される。 ビートは父の会社でブランドを立ち上げる若手実力派デザイナー、南
水面と組んで新ブランド「ランウェイ☆ビート」を立ち上げることになる、、、。
東京コレクションをブランドデビューに決め、美姫をモデルに起用すべく、ビートと
ワンダ、メイたちの挑戦が始まる、、、。
2011年映画化。 著者のイメージとはちょっと意外なケータイ小説。 連載時の一話が
短かったせいか、テンポよく話が進んでいく。 もちろん若い人向けの作品だけど、
原田マハさんのお話はやっぱりおもしろい。 オススメ度:8.2
舟を編む (三浦 しをん著、光文社文庫)
作品の紹介
大手出版社、玄武書房で辞書づくりに会社人生を捧げた荒木は、定年間際に後継者として
営業部の若手、馬締(まじめ)をスカウトする。 浮世離れした言葉オタクの馬締は、営業
部員としては役立たずだったが、辞書編集部ではいきなり真価を発揮する。
馬締は、監修の松本、OBの荒木らとともに新しい辞書「大渡海」の出版に向けて動き出す。
やがて、下宿先の大家の孫娘、香具矢と運命的な出逢いを果たし結婚。 しかし、会社の
方針で「大渡海」は何度も出版取りやめの危機を迎え、編集部の人員も削減される、、、。
15年後、入社三年目の若手、岸辺を辞書編集部に迎え、ようやく「大渡海」は出版される
ことになるが、、、、、、。
設定、リーダビリティー、人物造形、どれも超秀逸。 読後感も最高。 思わず人に勧め
たくなる傑作。 著者の筆力に改めて感心。
タイトルの「舟を編む」は、「辞書は言葉の海を渡る舟だ」という荒木の言葉からきている。
2012年度「本屋大賞」受賞作品。 オススメ度:8.7
むかしのはなし (三浦 しをん著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
計7編を収録した短編集。 「桃太郎」、「かぐや姫」、「浦島太郎」など日本の昔話
のあらすじに続き、各話が語られていく。 とはいえ、昔話と密接な話ではなく、著者
独特の感性によって、大胆につくりかえられている。 そして、独立したかに見える
それぞれの編が途中から、隕石衝突による地球滅亡という三か月後の未来でつながって
いく。 明るい話ではない。 爽快感のある話もない。 退廃感の漂う世界観の中で
展開するふしぎなお話。 オススメ度:8
ただいまが、聞きたくて (坂井 希久子著、角川文庫)
作品の紹介
埼玉県大宮駅から徒歩15分のアーリーアメリカン調の家に暮らす和久井家。
高2の次女は誕生日に彼氏に振られ、紳士だけれど変態趣味の男と知り合う。
23歳の長女は美人だけれど、BL小説に深くハマり、自らもBL小説を書きだす始末。
父の不倫がバレてから夫婦仲は冷えてしまい、46歳の母は美貌を生かして熟女キャバ
クラでアルバイトの日々。
物語は6章建ての連作短編集のような体裁。 次女の話に始まり、長女、母方の祖母、
長女の彼氏、母、そして最終話、父の話へと続いていく、、、。
ふつうの家族小説とはひとあじもふたあじも違う作品。 人物造形が最高。 設定も
独創的。 そして物語の結末も秀逸。 さまざまなジャンルの作品をハイクオリティー
に書き分ける著者の筆力に改めて感心。 オススメ度:8.2
謎解きはディナーのあとで 3 (東川 篤哉著、小学館文庫)
作品の紹介
人気シリーズの第三作。 全6編を収録したミステリー短編集。
東京 国立署のお嬢様刑事、宝生麗子が執事兼運転手、影山の名推理で事件を解決していく
というおなじみのパターン。 いつもながら安心して読める安定の仕上がり。
ラストで風祭警部が異動しちゃうけど第四作はどうなる??? 巻末に「名探偵コナン」
とのコラボ短編のおまけ付き。
第二作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
ますます酔って記憶をなくします (石原 たきび著、新潮文庫)
作品の紹介
大爆笑エピソード集「酔って記憶をなくします」の第二弾。
第一弾を読んだときほどのインパクトはなく、エピソードも小ぶりな感じ。
第一弾のブックレビューはこちら。
オススメ度:6.8
青雲はるかに(上) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
中国の戦国時代末期のお話。 魏に生まれた范雎(はんしょ)は大望を抱き、世に
出る機会を狙っていたが、なかなかうまくいかない。 そんな范雎を親友の鄭安平
が支える。 范雎は鄭安平の妹、鄭季の足の病を治す金を得るべく、中大夫の須賈
に仕える。 范雎は須賈に同行し、斉に向かい、内密に斉王に謁見する。
しかし宰相、魏斉と須賈は范雎が魏の機密を斉に漏らしたと決めつけ、范雎に笞打ち
の刑を課し、半死半生のまま厠室に投げ込む、、、。
そんな范雎を救ったのは、彼と一夜を共にした過去を持つ二人の美女だった。
魏斉の妾、原声が范雎を助け出し、匿う。 やがて魏斉と須賈の探索の手が伸びるが、
楚の貴族の娘、南シが新たな隠れ家へといざなう。 しかし、新たな潜伏先も危険に
なり、范雎は逃亡生活を続ける。 ようやく鄭安平と再会したのも束の間、秦の宰相、
魏ゼンが率いる軍が魏に攻め込む。 秦軍は魏軍を大破し、首都に迫る、、、。
「史記」では有名な范雎の苦難と成功と復讐の物語。 四十を過ぎても、世に出ること
のできない范雎のため息が聞こえてきそうな上巻。 オススメ度:8.1
青雲はるかに(下) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
魏は秦の猛攻を抑えきれず、次々と領地を割譲していく。 范雎も息を潜めて暮らす
日々が続くが、鄭安平の仲介で秦の昭襄王の信頼の厚い臣、王稽に認められる。
范雎は弟子の隹研とともに秦に向かう。 一年余り昭襄王への謁見が叶わない日々を
送るが、ようやく謁見が許され、遠交近攻策を献じ信任を得る。
やがて、昭襄王の公子の妻となった南シと再会。 昭襄王からも絶大な信頼を勝ちとる。
王は范雎を宰相とするため、叔父であり宰相の魏ゼン、母である太后をはじめ、親戚を
政から排除する。
秦を脅威と感じる魏の宰相、魏斉は須賈を秦に使いに出す。 范雎は須賈に魏斉の首を
差し出すように要求する。 魏斉は原声を人質にして趙に亡命するが、范雎の旧知の
説客が原声を范雎のもとに送り届ける。 范雎はついに原声を正室に迎える。
盟友、鄭安平を秦の将軍に迎え、范雎は趙と韓に兵を出し、勝利を積み重ねていく。
苦境に立たされた趙は自殺の道を選んだ魏斉の首を范雎のもとに送り届ける。
しかし、十年連れ添った原声に病で先立たれ、鄭安平は趙との戦いで捕虜となり、王稽
も冤罪で処刑される。 自らの引き際を悟った范雎は宰相の座を退く、、、。
上巻とは対照的に范雎の栄達、そして復讐を描いた巻。 秦の始皇帝誕生前夜の秦と周辺
諸国の関係の理解が深まった。 オススメ度:8.2
子産(上) (宮城谷 昌光著、講談社文庫)
作品の紹介
中国の春秋時代のなかば、子産は、かつて鄭の君主だった穆公の孫として誕生する。
中華の中央に位置する小国、鄭は、晋と楚の狭間でどちらかの国への隷属を繰り返して
いた。 子産の父、子国は、武の人であり、鄭の軍事の中心として、命を惜しまず戦い、
ついに司馬として第二位の大臣の地位に昇り詰める。 子産は知、礼のみならず、武でも
非凡な才能を見せ、ひとかどの貴族として成人する。
上巻の中心は子産ではなく子国。 生き延びるために晋と楚に交互に隷属する鄭という国
の苦悩、国のために愚直なまでにまっすぐに働く子国の姿を描いている。
晋、鄭で起こる君主の暗殺。 そして、権力が君主から大夫に移行していく時代の流れも
この物語の見どころのひとつ。
「吉川英治文学賞」受賞作品。 オススメ度:8.2
子産(下) (宮城谷 昌光著、講談社文庫)
作品の紹介
子産は幼き君主、簡公の側近として仕え始め、頭角を現す。 しかし、反主流派の謀反に
より、宰相とともに子国は命を失う。 父の喪が明けた子産は、司馬の子キョウに仕え、
将来を嘱望される次世代の鄭を担うべき中心人物となる。
若くして卿となった子産は、内政、外交、軍事、すべての面で輝きを放つ。
長らく鄭を苦しめてきた晋と楚が和解、やがて宰相の子皮から政を任される。
執政となった子産は礼を重んじ、民のための政を生涯続けていく。
鄭という危うい小国を安定に導いた子産の情と信念を描いた巻。 オススメ度:8.2
華栄の丘 (宮城谷 昌光著、文春文庫)
作品の紹介
中国の春秋時代、宋のお話。 名君、襄公の二代あとの昭公は暗君だった。 襄公夫人の
王姫は、大夫でありながら主流派ではない華元に目をかけ、公子鮑と引き合わせる。
やがて王姫は昭公を暗殺し、公子鮑を君主の座にすえる。 君主となった文公は、華元を
宰相に大抜擢、華元は盟主国である晋に文公の即位を認めさせる。
君主となったものの、文公の暗殺を目論む勢力ふたつを牽制しながら、華元は政を進める。
文公は謀反の目を先制攻撃でつみとる。 華元は士仲という名臣を得て、宰相としての地歩
を固める。 鄭との戦いで敵の捕虜となるも、士仲の救援で脱走に成功。 大国、楚との
戦いでも命を懸けて和睦を図る。 そして、晋と楚との講和でも仲介の大役を果たす。
おおらかで無私の人。 陽性で自然体の人。 著者の作品の主人公にしてはめずらしい
タイプの人物という印象。 なかなか知る機会のなかった宋という国に対する理解も深まった
一作。 「司馬遼太郎賞」受賞作。 オススメ度:8.2
明智左馬助の恋(上) (加藤 廣著、文春文庫)
作品の紹介
勢いを失った三宅家の次男、弥平次は、明智光秀の叔父の養子となり、やがて光秀に
仕える。 明智左馬助となった弥平次を長女、綸と夫婦にしようと光秀夫妻が考える。
しかし、光秀が信長の家臣となり、信長の命で、綸は荒木村重の長男、村次のもとに
嫁ぐ、、、。
十年の時を経て、左馬助は二人の子をもうけた妻に先立たれ、三十過ぎの男やもめの
暮らし。 そんな中、荒木村重が信長に謀反の兵をあげる。 村重は息子に綸と離縁
させ、光秀のもとに戻すが、綸は子どもの産めない身体になっていた。 綸の身体の
ことを知らない光秀は左馬助に綸を添わせる。
光秀と秀吉の出世争いは熾烈を極めるが、山陽道、山陰道に軍を進めた秀吉が光秀の
一歩先を行く、、、。
光秀ではなく、左馬助に焦点を当てた作品であるが、光秀の存在感も大きく、違和感は
ない。 光秀の謀反を描いた従来の作品とは一線を画した新鮮な物語。 リーダビリ
ティーも秀逸。
「信長の棺」、「秀吉の枷」に続く本能寺3部作完結編。 オススメ度:8.2
明智左馬助の恋(下) (加藤 廣著、文春文庫)
作品の紹介
信長から秀吉への援軍を命じられた光秀は急ぎ軍を進めることなく、連歌の会を催す。
会の後、左馬助は光秀から謀反の計画を打ち明けられる。 光秀は公家の実力者、近衛
前久から告げられた天皇からの信長追討の命を信じていた。 左馬助は光秀に翻意を
促すが、光秀の決意は揺るがなかった。 腹をくくった左馬助は光秀に従い、本能寺で
信長を討つ。 本能寺の変の後、光秀は家康が近衛前久を使って光秀に謀反を起こさせた
ことを知る。 さらに秀吉も光秀謀反をリアルタイムで把握し、事前に京に向かう準備を
進めていた、、、。 光秀に味方する武将は現れず、左馬助は潔い散り際を選択する。
中盤までは信長の遺体を巡るミステリーや家康、秀吉の策謀などドライブ感がある展開。
終盤は左馬助のまっすぐな心根が巧みに描かれていた。 結末はわかってはいたものの、
やはりせつない。 あと、個人的には、このタイトルでいいの?とやや疑問。
オススメ度:8.2
陰陽師 蒼猴ノ巻 (夢枕 獏著、文春文庫)
作品の紹介
シリーズ第13作。 計10編を収録。 今回は短編が多かった印象。
短編ながらスケールの大きなお話、ミステリー色が強い作品などバラエティー豊かな
ラインナップが揃った一作。 オススメ度:8
陰陽師 蛍火ノ巻 (夢枕 獏著、文春文庫)
作品の紹介
シリーズ第14作。 計9編を収録。
晴明の好敵手、芦屋道満が活躍する話が多い巻。 オススメ度:8
沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一 (夢枕 獏著、角川文庫)
作品の紹介
804年、31歳の空海は、遣唐使の一員として長安に赴く。 同い年の儒学者、橘逸勢
と意気投合。 空海は、妖の怪異に悩む人々を救っていく。
やがて、空海と橘逸勢は、なじみの妓楼で、長安の警察官、劉雲樵の家にとりついた
怪猫の話を耳にする。 怪猫は劉の妻を寝取り、徳宗皇帝の死を予言していた。
さらに、二人は徐文強の畑で起こった怪異についても知ることになる。 その畑では
妖が徳宗皇帝の皇太子、李踊(後の順宗)が倒れる日を予言していた、、、。
空海は、恵果和尚率いる青龍寺のチベット僧、鳳鳴とともに怪猫の謎にとりかかる。
空海と橘逸勢は、著者の代表作「陰陽師」の安倍晴明と源博雅を見ているかのよう。
とはいえ「陰陽師」の二人とはひとあじ違った人物造形で、ひとあじ違った怪異譚を
巧みに描いている。 全四巻。 2018年映画化。 オススメ度:8.1
沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ二 (夢枕 獏著、角川文庫)
作品の紹介
怪猫にとりつかれた劉雲樵の妻は老婆に成り果てる。 彼女が舞いながら唄ったのが
李白がかいた楊貴妃の唄と知った空海は、一連の怪異が楊貴妃に関係しているのでは
ないかと推理する。 逸勢とともに楊貴妃の墓に向かった空海は白楽天とともに墓を
掘り起こすが、遺体は消えていた。 続けて、空海は逸勢、白楽天とともに徐文強の
畑を掘り起こし、兵士の俑(焼きもの)を見つける。 それは千年以上前に秦の始皇帝
を埋葬した時の副葬品の陶像だった。
一連の事件は呪師、ドゥルジが後ろで糸をひいていた、、、。
空海は道士、丹翁が宰相、王淑文から取り戻したかつての遣唐使、安倍仲麻呂の手紙を
読み、安禄山の乱の折、玄宗が道士、黄鶴の術により、楊貴妃を死んだようにみせかけ
埋葬したことを知る。 二年後、楊貴妃は墓から出されるが、十歳以上老け込み、魂が
ない状態になっていた、、、。
怪異の謎の全容が見えてこないまま、物語は折り返し地点へ。 怪異もさることながら
壮大なミステリーを描いた物語でもある。 オススメ度:8.1
沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三 (夢枕 獏著、角川文庫)
作品の紹介
空海のもとに時おり現れる謎の道士、丹翁は、黄鶴の弟子であり、楊貴妃を仮死状態
にしたときの現場にも居合わせていた、、、。
丹翁とともに黄鶴に仕えていたもう一人の弟子、白龍は、順宗を呪い殺そうと企てる。
呪師ドゥルジの正体は、白龍であり、王淑文を操っていた。 順宗の命を救うため、
青龍寺の恵果が召し出される。
やがて、玄宗に仕えた宦官、高力士が阿倍仲麻呂に宛てた手紙が、恵果の留守中、青龍寺
から丹翁に盗まれ、空海の手にわたる。 その手紙には、黄鶴が唐の転覆を図り、楊貴妃
を玄宗のもとに送るべく高力士に近づいたことが書かれていた。 黄鶴は楊貴妃の実の父
だった、、、。 墓から救い出された楊貴妃は、白龍と丹翁とともに姿を消していた。
謎が徐々に明らかになる第三巻。 そして時をこえた因縁が次々にベールを脱いでいく。
オススメ度:8.1
沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ四 (夢枕 獏著、角川文庫)
作品の紹介
空海は一連の怪異に決着をつけるべく、橘逸勢、白楽天らとともに、玄宗と楊貴妃の思い出
の地、華清宮へ向かう。 そこでは、白龍が順宗に対する呪詛を行っていた。
ほどなく丹翁が現れ、楊貴妃、白龍と姿を消した秘密が明かされる。 さらに、怪異にまつ
わる意外な人物が姿を現し、ついに一連の騒動に決着がつく、、、。
その後、空海は恵果から密を受け継ぎ、密教の最高位、阿闍梨の称号を得る。 唐に渡り、
わずか一年で密教の神髄を会得した空海は日本に向かって旅立つ、、、、、、。
怪異の決着は「そこまでアリ?」という怒涛の展開。 だけど、せつなくも美しい決着だった。
物語のクオリティーを担保しつつ、怪異×ミステリー小説の面目も躍如か。 著者の代表作
「陰陽師」とはひとあじ違ったテイストを堪能できた大作。 オススメ度:8.1
約束 (小松 エメル著、角川文庫)
作品の紹介
「蘭学塾幻幽堂青春記」シリーズ第二作。
京の蘭学者、玄遊の主宰する玄遊堂、通称「幻幽堂」。
江戸の多摩から上京した水野八重太は、天敵とも言える塾の仲間、秋貞司郎の後をつける
うちに怪異に巻き込まれる。 塾の仲間たちの助けもあって、何とか危機を切り抜ける。
やがて、秋貞の父の親友で、彼の後見人ともいえる高槻に出会う。 労咳の高槻を看病する
なかで、水野は秋貞の悲しい過去を聞く。 秋貞の父は、妖刀に宿った呪いにより、妻や
藩士を斬殺し、自らの命を絶っていた、、、。 玄遊堂の塾生たちの看病もむなしく、高槻
は、息を引き取る、、、。
水野と秋貞の距離が少し縮まった感もある巻だけど、まだまだ二人の距離は遠いか。
第一作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8
宿命 (小松 エメル著、角川文庫)
作品の紹介
「蘭学塾幻幽堂青春記」シリーズ第三作。
水野は同郷の壬生浪士組(後の新撰組)、沖田総司に再会する。 しかし沖田は神隠しに
あったかのように姿を消す。 やがて、水野は、塾の仲間たちと怪異に巻き込まれるが、
危機を救ったのは、沖田と塾生の泉だった。 危機のさなか、水野は泉の重大な秘密を知る。
巻を重ねるごとにファンタジー色が増してきた。 青春小説としての性格は残しているものの、
どこまでいくのとやや疑問。 オススメ度:8
秘密 (小松 エメル著、角川文庫)
作品の紹介
「蘭学塾幻幽堂青春記」シリーズ第四作。
玄遊堂の塾生、中村の義弟が阿片密売の嫌疑で新撰組に捕らえられる。 さらに、事情を聴きに
出向いた玄遊までもが拘束される。 水野たち塾生は真犯人を見つけるべく捜査に乗り出すが、
やっと見つけた犯人に仲間とともに捕らえられる。 しかし、坂本龍馬の助けで危機を脱する。
よくも悪くも先の読めない展開。 オススメ度:8
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