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読書感想文2009 part 2
「読書感想文2009」 part2 は、3月〜4月の読書録。
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マイナス・ゼロ (広瀬 正著、集英社文庫)
作品の紹介
11年ぶりに復刊された文庫版「広瀬 正・小説全集」(全6巻)の第1巻。
1970年の作品であるが、SF小説、中でも、タイムトラベル小説の金字塔として高い評価を
受けている作品。 本作は、直木賞候補にも挙げられました。
【あらすじ】 終戦前夜の東京。 中学二年生の浜田 俊夫は、隣家のひとり娘で三歳年上の啓子
に好意を寄せていた。 しかし、東京大空襲の夜、啓子は行方不明になってしまう。
18年後(1963年)の同じ日、俊夫は、啓子の養父の末期のことばに従い、隣家の跡地を訪れる。
そこには、18年前と同じく、啓子の養父の研究室が残されていた。 現在の居住者である及川氏
は、俊夫を研究室に通してくれる。 すると、俊夫の目の前にタイムマシンが姿を現わし、中から
啓子が出てきた。 彼女は、18年前のまま、17歳の啓子だった、、、、、、
⇒ なんて感じで、物語が幕を開けます。 そして、今度は、俊夫がタイムマシンで啓子の養父が
生きていた昭和初期へと旅立ち、せっかく巡り会えた啓子と離れ離れになってしまうのです。
こうして、時代を超えた俊夫と啓子の壮大な恋愛の物語がスタートします。
⇒ ハイクオリティのSF小説であり、ミステリー小説であり、そして、ラブ・ストーリーでもあり
ました。 構成が緻密にして秀逸。 アクロバティックな展開も見ものです。
「本の雑誌」2008年度 文庫SF部門:第1位。 オススメ度:8
ベルカ、吠えないのか? (古川 日出男著、文春文庫)
作品の紹介
1943年、第二次世界大戦下のアリューシャン列島。 日米両軍が交戦する中、兵士たちとともに戦う
軍用犬たちがいた。 日本軍の勝、北、正勇(いずれも雄)。 そして、アメリカのエクスプロージョン(雌)。
勝は上陸してきたアメリカ軍と戦い、命を落とすが、残りの三頭は、20世紀を駆け抜けたイヌたちの、壮大な
系譜の祖となる。
⇒ やがて、三頭の子どもたち、孫たち、子孫たちは、世界中に散らばり、あるものは、戦いの中に身を置き、
あるものは、冒険で、犬橇レースで、コンテストで、苦悩や忍耐、愛を知る。 三頭のイヌの子孫たちは、時代の
ところどころで、数奇な運命に導かれるように出会い、また別れていく。 そして、ソビエト連邦崩壊前夜のロシア
では、ベルカという名の雄犬が、殺人兵器としての訓練に明け暮れていた、、、、、、。
⇒ という感じの、イヌたちの生きざまを描いたお話です。 時代的には、1943年から1991年まで。
とは言え。 全編、イヌがしゃべっている話でもなく。 イヌたちがふれ合う人間たちのこと、参加させられる戦いの
ことに多くのページが割かれています。 あと。 出てくるイヌの数も半端じゃなく、、、。
中でも、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争など、20世紀の戦争に、軍用犬として、膨大な数の
イヌが参加し、犠牲になったのか、恥ずかしながら、この作品を読んで初めて知った次第です。
⇒ なかなか人に説明するのが難しい小説ですが、骨太な作品がお好みの本好きの人、オリジナリティーのあふれる
小説を探している活字中毒の方には、もれなくお勧めします。 逆に言うと、きちんと向き合わないとおもしろくない
作品だということです。
2006年「本屋大賞」第8位。「本の雑誌」08年度文庫現代小説部門:ベスト10作品 オススメ度:8.2
隠蔽捜査 (今野 敏著、新潮文庫)
作品の紹介
警察庁 長官官房 総務課長、竜崎 伸也、46歳。 階級は、警視長。 東大卒のキャリア組。 組織の中核で要職に
就いているエリート官僚。 学歴社会をみごとなまでに肯定し、東大以外は大学ではない、と息子を浪人させるような
面も持つが、私欲のない、公務員の鑑のような男。 しかし、融通の利かなさが表に立ち、職場でも家庭でも「変人」
扱いされている。
竜崎と小学校の同級生で、警察にも同期で入省した伊丹 俊太郎。 とは言え、幼馴染で仲がいいという訳ではない。
少なくとも、竜崎は30年以上を経た現在も、伊丹にいじめられた過去を払拭できずにいる。 伊丹は警視庁の刑事部長。
キャリア組では唯一の私大卒であるが、社交的な性格から、周囲から支持されている。
ある日、過去に殺人を犯しながら、未成年ゆえに少年法の適用を受けた男が二人続けて射殺される。 そして、今度は
別の事件で殺人を犯し、同じく少年法の適用を受けた男が撲殺される。 刑事部長の伊丹は、直ちに捜査本部を設置し、
事件解明のため、自ら現場で陣頭指揮をとる。 一方、竜崎は、犯人に好意的な報道さえする一部の雑誌やワイドショー、
抜けがけを画策し竜崎に接近を図る新聞社などのマスコミ対策に神経をすり減らしていた。
そんな中、竜崎は、息子が自室でマリファナを吸引している現場を目撃する。 息子に自首させることが当然の義務だと
信じる竜崎は、自分のキャリアの終焉を覚悟するが、伊丹は竜崎に息子のマリファナのことは忘れろ、とアドバイスする。
ほどなく、連続殺人事件の犯人が逮捕されるが、、、、、、。
⇒ 物語は、ここから佳境を迎えます。 ネタバレになるので書けませんが、逮捕した犯人を巡って、警察の中枢が大混乱に
陥ります。 正義を貫こうとする竜崎。 正義ではなく、組織を優先しようとする上層部。 そして、竜崎と上層部の板挟みと
なって悩む伊丹。 竜崎と伊丹は、わかり合えるのか、それとも、袂を分かつのか、が後半の見どころです。
⇒ と、言う感じで、竜崎と伊丹という二人の対照的な警察官を軸に、警察内部の混乱や体質を描いた秀作。
⇒ 余談。 物語の序盤に、竜崎の学歴主義やエリート志向を説明している箇所があります。 かたくななまでの東大礼賛に
眉をひそめる読者も多いかもしれませんが、部分的に筋が通っていると思う箇所も(個人的には)散見されまして。
正しい、まちがっているという観点ではなく、ある意味 極論にも近い竜崎の価値観を味わう、という観点で、この作品に
触れてみるのも、ありかも。
2006年度「吉川英治文学新人賞」受賞作。 オススメ度:8.2
リピート (乾 くるみ著、文春文庫)
作品の紹介
大学4回生の毛利に突然かかってきた見知らぬ男からの電話。 男は一時間後に起こる地震を予知する。
一時間後、予言通りに地震が起こり、呆然としていていた毛利に男から再び電話がかかってきた。
その男、風間は、予知能力があるのではなく、未来から来たのだと毛利に説明する。
風間は、過去の自分の肉体の中に(現在の)自分の意識が戻る「リピート」という体験を何回も繰り
返していた。 そして、次回の時間旅行(すなわちリピート)へのゲスト(同行者)として、毛利は風間
から誘われる。
⇒ やがて、毛利は、風間から誘われた他の8人のゲストとともに、意識だけが10か月前の肉体に移動した。
リピート仲間の女性とも恋人になり、10か月前とは違う時間を過ごせそうに思っていた毛利だったが、
仲間が次々と謎の死を遂げ、毛利自身も災難に襲われる、、、、、、。
⇒ おもしろかったです。 僕は、こういう話、好きです。 「タイムマシン」もののSF的な魅力に加え、
「そして誰もいなくなった」的なミステリーの魅力もたっぷりで。 けっこうお勧めかも。
⇒ 著者の乾くるみさんの作品を読むのは二作目でした。 前作「イニシエーション・ラブ」で大トリックに
やられていたので、この作品も心して読み始めました。 前作が前作だっただけに、タイムトラベルという
SF的な設定が出てきても、きっとSFではない、ミステリー的なトリックがあるにちがいない、と警戒(?)
しながら読み進めたわけです。 結果は、、、SF × ミステリーでした(笑)。
※「イニシエーション・ラブ」に関しては、
「読書感想文2008 part2」をご参照ください。
「本の雑誌」2008年度文庫 国内ミステリー部門:第4位。 オススメ度:8.7
愚か者死すべし (原 薯、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
横浜の銀行で、暴力団の組長が撃たれた。 銃撃事件と同じ時刻、この銀行の支店長室を訪れていた92歳の
老人が誘拐される。 銃撃事件の犯人は、自首するつもりで、銀行の駐車場の車を止めたが、その車は、偶然
にも、老人を誘拐した犯人の逃走用のものだった。 銃撃犯は、そのまま、誘拐犯に連れ去られ、老人とともに
監禁されることになる。
翌日、銃撃犯の義理の兄が身代わりで自首した。 しかし、自首した男の娘が探偵である沢崎のもとを訪れ、父の
無実を証明してほしいと訴える。 沢崎は、父との面会のために警察に向かう娘を愛車で送り届けるが、娘の父、
伊沢は、護送途中、沢崎の目の前で、何者かに狙撃される。 沢崎は、狙撃犯を追跡したが、見失ってしまう。
⇒ なんていうスリリングな展開とともに、このミステリーは、幕を開けます。 このあとも、誘拐された老人の
救出やら、老人に依頼される仕事やら、忙しく立ち回るうち、沢崎は自分も命を狙われていることに気づきます。
しかし、事件は、意外な展開を見せ始め、、、ラストは、、、ちょっと想像がつかないものでした。
⇒ 複数の事件が複雑に交錯していたり、終盤直前で意外な事実が明らかになったり、、、本格ミステリーが好き
でなければ、ちょっとつらいかもしれません。 デキはいい作品なんですけどね。 オススメ度:8
水滸伝 1 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
12世紀の中国 北宋の時代を描いた名作「水滸伝」の北方 謙三版。 全19巻の大作。
⇒【あらすじ】 北宋末期、国の政治は乱れ、役人は腐敗し、人民は重税に苦しめられていた。
そんな世の中を正すため、宋江(そうこう)と晁蓋(ちょうがい)という二人の傑物が立ち上がる。
二人は、時を同じくして、国を倒すための同志を集める活動をはじめ、やがて巡り会う。
宋江のまわりには、同志のスカウト担当の魯智深(ろちしん)や槍の名手、林沖(りんちゅう)、地方軍の将校、
花栄(かえい)らがいた。 そして、晁蓋も、大商人の盧俊義(ろしゅんぎ)、私塾師範の呉用(ごよう)ら
多士済々の人材に支えられていた。 宋江(そうこう)と晁蓋(ちょうがい)は、反乱の拠点として、梁山湖
(りょうざんこ)の山塞に目をつける。 その山塞には、かつては国を正す志のもと、王倫(おうりん)を首領
として集まったが、今は山賊になり果てた一団が籠っていた。
宋江と晁蓋は、今こそ立つ時と決意し、梁山湖の山塞奪取の作戦を開始する。
⇒ 第1巻「曙光(しょこう)の章」は、禁軍の武術師範、林沖(りんちゅう)が軍を追われ、罪人となり、牢内で
同志を得る苦難を中心に、宋江と晁蓋の周辺人物の紹介、交流が描かれています。
⇒ ということで、、、全19巻からなる大作を読み始めることになりました。 書評家の北上次郎さんによると、本来、
「水滸伝」の原作は物語としては不完全なものであったが、北方謙三さんは、独自の視点と創造力で物語を再構成し、
登場人物に血と肉を与えて蘇らせたとのこと。 確かに、第1巻から熱い展開の連続でした。
「水滸伝」全19巻は、2006年度「司馬遼太郎賞」受賞。 オススメ度:8.5
「北方謙三 水滸伝公式サイト」は
コチラ。
水滸伝 2 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
宋江(そうこう)配下、魯智深(ろちしん)の弟分、武松(ぶしょう)は、故郷で兄嫁を自殺に追いやり、失意に
暮れる。 魯智深は元・禁軍武術師範、王進(おうしん)に武松の再起を託す。
梁山湖の山塞に潜入した林沖(りんちゅう)は、首領の王倫(おうりん)の猜疑心から命を何度も狙われるが、
共に山塞に潜入した医師、安道全(あんどうぜん)の助けもあり、王倫を廃する機会を窺っていた。
一方、晁蓋(ちょうがい)は、新たな同志として目をつけていた公孫勝(こうそんしょう)を牢獄から救出。
公孫勝は、来るべき戦いに備えて、特殊工作部隊「致死軍」を組織する。
その後、晁蓋は、宰相への賄賂を強奪し、それを手土産に梁山湖の山塞に逃げ込む。 林沖が首領の王倫を殺害し、
ついに山塞の実権を握ることとなった。 晁蓋は山塞を「梁山泊(りょうざんぱく)」と命名し、「替天行道(たいてん
ぎょうどう)=天に替わり、道を行う」の旗を掲げた。 僕のオススメ度:8
「北方謙三 水滸伝公式サイト」は
コチラ。
水滸伝 3 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
晁蓋が強奪した賄賂を守っていた禁軍将校の楊志(ようし)は、魯智深(ろちしん)とともに、山賊の根城、
二竜山(にりゅうざん)を手中におさめ、首領となる。 梁山泊の同志になったわけではなかったが、少しずつ
その方向に近づいていた。 これまで、軍人の中の軍人としてストイックに生きてきた楊志だったが、山賊から
命を救った孤児を、楊令(ようれい)と名づけ、好意を寄せる済仁美(さいじんび)に楊令を託す。
国の諜報機関、青蓮寺(せいれんじ)は、晁蓋(ちょうがい)の腹心、盧俊義(ろしゅんぎ)が開いた闇の塩の
流通ルートを突きとめるべく、特殊部隊を大量に投入するが、公孫勝(こうそんしょう)率いる致死軍に壊滅させ
られる。 この戦いにより、青蓮寺側も梁山泊と各地に散らばる叛乱分子への警戒を強める。
一方、宋江(そうこう)の弟、宋清(そうせい)は、梁山泊の密偵、?礼華(とうれいか)と知り合い、恋に落ちるが、
宋江の愛人、閻婆惜(えんばしゃく)が?礼華と宋江との仲を誤解し、殺害してしまう。 宋清は宋江の愛人を殺害
するが、宋江は殺人の罪をかぶり、武松(ぶしょう)とともに逃亡の旅に出る。 オススメ度:8
「北方謙三 水滸伝公式サイト」は
コチラ。
水滸伝 4 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
宋江(そうこう)の愛人、閻婆惜(えんばしゃく)の母、馬桂(ばけい)は、長い間、梁山泊の諜報員の役割を
担ってきた。 しかし、国の諜報機関、青蓮寺(せいれんじ)の中心人物、李富(りふ)の策略により、宋江が
ほんとうに娘を殺害したと信じ込む。 李富は、やがて、馬桂を愛人にし、彼女を青蓮寺の密偵に仕立て、梁山泊
の情報を得ようと画策する。
逃亡の身の宋江は、南に向かった。 旅の途中で、穆弘(ぼくこう)、李俊(りしゅん)など、叛乱の志を持ちながら
自分のエネルギーを持て余している若者と出会う。 やがて、李俊は、梁山泊のスローガン、「替天行道(たいてん
ぎょうどう)」の旗を掲げ叛乱の声をあげ、穆弘が李俊を支える。
その後、宋江は、宋南部の中心、江州に向かう途中、李逵(りき)と名乗る怪力の男と出会い、共に旅をすることに。
しかし、青蓮寺の手先である江州の副知事が宋江の潜伏先を突きとめる、、、、、、。 オススメ度:8
「北方謙三 水滸伝公式サイト」は
コチラ。
ユージニア (恩田 陸著、角川文庫)
作品の紹介
金沢の名士の家で、大量毒殺事件が発生する。 家族だけではなく、当主の母の米寿祝いに訪れた親類や
近所の人たちも巻き添えになった。 祝いの席に配達された酒やジュースに毒が混入されていたのである。
祝いの席にいて、命を取りとめたのは、当主の娘で目の見えない緋紗子と家政婦だけだった。
事件は、犯人で、精神を患っていた青年の自殺で幕を閉じたかに見えた、、、、、、。
⇒ 十年後、事件当日、庭にいて命をとりとめた近所の娘、満喜子(当時小学校5年生)が、事件の取材をはじめ、
やがて「忘れられた祝祭」という本になり、世に出る。 しかし、この本の中でも、事件の真相が、ほんとうの
意味で明らかになることはなかった、、、、、、。
⇒ さらに二十年後。 事件の真相に近づく証拠は、もう、ほとんど残っていない。 しかし、事件を担当した
老刑事や満喜子をはじめ、事件にとらわれ続けている人々がいた、、、、、、。
⇒ 恩田陸さんっぽい作品。 事件を人々の証言だけで構成した「Q & A」という作品に少し似た実験的な小説。
かなりの章が、対話文ではなく、事件の取材を受けている人のことばのみで構成されています。 ふつうのミス
テリーを期待している人は、この独特の表現に慣れるまで、読みづらいかも、、、。
恩田ファンにはお勧めですが、好ききらいがわかれる小説だと思います。
2006年度「日本推理作家協会賞」受賞作。 オススメ度:7.5
ねこのばば (畠中 恵著、新潮文庫)
作品の紹介
大人気「しゃばけ」シリーズの第3弾。 表題作(「ねこのばば」)を含む計5編の短編集。
江戸時代のお話。 大店(おおだな)の病弱な若だんな、一太郎が妖(あやかし)たちと協力して、難事件を
解決していく物語。 時代小説×ファンタジー小説×ミステリー小説のおもしろさがぎっしり詰まったお勧め
のシリーズです。 シリーズ 第1弾、第2弾のブックレビューは、
「読書感想文2008年 part5」をご覧ください。
マンネリになるどころか、クオリティーがさらに上がった感すらする三作目。 オススメ度:8.2
おまけのこ (畠中 恵著、新潮文庫)
作品の紹介
大人気「しゃばけ」シリーズの第4弾。 表題作(「おまけのこ」)を含む計5編の短編集。
↑の第3弾「ねこのばば」に続いて、ハイレベルの作品がつまった一作。
「ねこのばば」より、やや陰のあるテイストの作品が並んでいました。
とは言え。 このシリーズは、ほとんどの人がおもしろいと思うはず。
食わず嫌いにならず、一作目から読みましょう。 オススメ度:8
黄金旅風(りょふう) (飯嶋 和一著、小学館文庫)
作品の紹介
1630年前後、徳川 家光が将軍だった頃の長崎のお話。
長崎代官にして貿易商、末次 平蔵の嫡男、平左衛門は、少年時代は「悪童」、長じてからは「放蕩息子」という
レッテルを貼られていた。 父親からは勘当されたが、自ら始めた廻船業は順調で、30歳を越え、無二の親友で、
火消組頭の平尾 才介と町人のために心を砕きつつも、自由に生きていた。
しかし、時代は、キリシタン弾圧、オランダ、ポルトガル、イスパニアを相手にした外交、貿易問題、そして江戸表
をも巻き込んだ長崎奉行、西国大名たちの私欲、野望などの問題が複雑に絡み合い、予断を許さない状況にあった。
そんな中、平左衛門の父、平蔵が何者かに暗殺され、平左衛門は本意ではなかったが、周囲から推され、長崎代官に
就任する。「放蕩息子」と高をくくっていた長崎奉行や西国大名たちは、やがて平左衛門の真の姿、実力を知ること
なり、江戸表でも平左衛門を評価し接近を図る老中が出てくる。
やがて、長崎奉行 竹中 重義は、将軍の許可なく独断でマニラに船を派遣し、イスパニアと戦おうとするが、、、、。
⇒ 後半は、長崎の民を守るために、平左衛門が幕閣たちに直接働きかけ、長崎奉行 竹中 重義の悪政、私欲、野望を
告発するプロセスが丹念に描かれています。 代官とは言え、商人の平左衛門が老中や大名たちを相手に一歩も引かない
凛とした様は、この物語の大きな魅力だと思います。
⇒ 全編、平左衛門の、男としての、そして、人としての生きざまがさわやかに描かれていました。 そして、当時の
長崎の貿易商、船乗りたちの描写も生き生きとしていて、著者の取材力、思い入れに感心しました。
「本の雑誌」2008年度文庫 総合:第1位 / 時代小説部門:第3位。 2005年度「本屋大賞」:第8位
玄人受けのする作品。 600ページの大作。 オススメ度:8
末世炎上 (諸田 玲子著、講談社文庫)
作品の紹介
11世紀半ば、平安時代末期のお話。
都の貧民街で暮らす、みごとな黒髪を持つ美少女、髪奈女(かみなめ)。 貧しいながらも、家族や周りの人々と
共につましく幸せに暮らしていた。 ところが、ある日、貴族の子息たちにさらわれ、乱暴されたショックで記憶を
失くしてしまう。 京の街をあてもなくさまよい、生き倒れ寸前となっていた髪奈女を助けたのは、うだつのあがらぬ
下級役人、橘 音近だった。 音近の家で働くことになった髪奈女は、やがて、夢で「吉子(きちこ)」という女が
帝や在原 業平(ありわらのなりひら)と語り合う場面を見る。 夢にしては、リアルであり、あたかも自分が吉子で
あるかのような感覚におそわれた。 しかし、吉子も業平も二百年前の人物だった、、、、、、。
⇒ この後、物語は、髪奈女(かみなめ)、音近(おとちか)、そして、在原 業平の子孫、風見(かざみ)の三人を
軸に進んでいきます。 髪奈女は、はたして、吉子の生まれ変わりなのか、それとも、吉子の亡霊にとりつかれて
いるのか? 髪奈女は、音近とともに、真相を追い求めます。
その一方で、音近は風見と、御所で起こる放火騒ぎの捜査を進めていくうちに、二百年前にも起きた同様の事件の
真相に近づき、ついに吉子の正体に辿り着くが、、、、、、。
⇒ 見た目は時代小説なのですが、少しファンタジー色のあるミステリー小説です。 この作品のすごいところは、
二百年前の時代の謎を、(物語の中での)現在の人間が解き明かすという構造をとっているところだと思います。
さらに、吉子の正体も、作品の魅力を支えており、オリジナリティーの高い作品に仕上がっていると感心しました。
「本の雑誌」2008年度文庫時代小説部門:第9位 オススメ度:8
ボーイズ・ビー (桂 望実著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
70歳の靴職人、園田 栄造は、腕はいいが、かなりの偏屈。 真っ赤なアルファロメオを乗り回し、ファッションセンスも
若々しいが、他人との関わりを避けて暮らしている。 しかも、独身。 最近は、思い通りの靴を作れなくなったことを
自覚し、スランプの真っただ中。 このまま引退かという考えも頭をよぎる毎日。
川畑 隼人は、12歳。 成績優秀の学級委員長。 でも、ガリ勉でも、まじめ一辺倒でもなく、女の子の人気も高い。
母親を1か月前に病気で亡くし、仕事で忙しい父に代わって、5歳違いの弟のめんどうをよくみている。 とは言え、父に
心配をかけまいと、なにかと我慢の日々を送っていた。
そんな、栄造と隼人の二人が、ふとしたことで言葉を交わすようになる。 子どもはおろか人ぎらいの栄造も、徐々に隼人
に心を開くようになり、隼人も父に言えない悩みを栄造に打ち明ける。
栄造のアドバイスは、必ずしも適切なものばかりではなかったが、隼人といっしょに悩むうちに、二人の絆は、いっそう
強まり、今度は、隼人が栄造のスランプ脱出に手を貸すようになる。 そうこうするうちに、二人の輪に、隼人の弟や栄造
を遠目で見ていた大人たちも加わり、栄造は孤独な老人ではなくなっていく。
そして、周囲の応援に支えられ、栄造は、イタリアの靴のコンクールに出品する作品づくりを始める、、、、、、。
⇒ 大事件が起こるわけではないですが、栄造と隼人、交わるはずのない二人が心を通わせていくプロセスは、さわやかで
ほほえましくもありました。 この作品に触れた人は、おとなも子どもも、二人を応援せずにはいられない。 そんなエピ
ソードを丹念に紡いで、心あたたまる作品にしあがっていると思いました。 読後感のいい一作。
「本の雑誌」2007年度文庫総合:第9位 オススメ度:8
天使のナイフ (薬丸 岳著、講談社文庫)
作品の紹介
32歳のコーヒーショップの店長、桧山は、4歳の娘、愛美(まなみ)と二人暮らし。
最愛の妻、祥子は、4年前、当時中学1年生の少年3人に殺害され、20歳でこの世を去った。
しかし、少年法のもと、少年たちは、数年後、高校生として、ふつうの生活に戻っていた。
ある日、祥子を殺した少年の一人、沢村が桧山の店の近くで殺害される。 犯行時間のアリバイがなかった桧山は、
警察から容疑者として扱われる。 日を置かず、今度は、駅で、桧山のすぐ近くにいた別の少年が何者かに背中を
押され、線路に転落。 幸い、その少年、丸山は、命を取り留めるが、桧山への疑惑は、ますます高まる。
そして、もう一人の少年、八木も、ほどなく殺害されるが、桧山にはアリバイがあり、ようやく容疑が晴れる。
3人の少年を襲った犯人は誰なのか、、、犯行の目的は何なのか、、、桧山は自ら事件解決に挑むが、、、、、、。
⇒ ふつうのミステリー小説なら、桧山が真犯人を見つけて終わり、なわけですが、この作品は、その向こうに
どんでん返しが2つも3つも用意されていて、、、。 しかも、物語終盤に、ほとんど何の前触れもなく突然読者に
突きつけられるので、個人的には「???!」な感じがしました。 ネタバレになるので、詳しくは書けませんが、
そのどんでん返しがすべて同じ糸というか因縁で結ばれていて、、、。 いくらフィクションとは言え、そこまで
偶然は続かんだろう、とツッコミを入れたくなりました。 とは言え、、、。 この、終盤のどんでん返しの連続に
感嘆するミステリー・ファンが多数存在するだろうことも容易に想像できます。
あと、それとは別に、作品全体を通して、少年法を多角的にとらえたという点は、秀逸だったと評価できました。
2005年「江戸川乱歩賞」授賞作。 ですが、、、オススメ度:7.5
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