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いま、会いにゆきます
6歳の息子と暮らす男の前に1年前に死んだはずの妻が現れる。
そんなふうにして、この物語は始まります。
◇あらすじ
巧は、29歳。ひとり息子の佑司は、6歳。
ほんとうに仲のいい親子だ。裕福ではないが、幸せな毎日を送っている。
ただひとつ、ふたりの生活に足りないもの、それは、妻であり母だった。
巧の妻、澪は一年前にこの世を去っていた。
「雨の季節になったら、戻ってくる」ということばを残して、、、、、。
巧は、佑司にひとつのお話を語り始める。
死んだ人は、みんなアーカイブ星に行って、幸せに暮らしている。
この星は、世界中の人間の心の中にいる人たちが集まって暮らしている。
誰かが思っていてくれる限り、この星で暮らしていける。
でも、誰かがその人のことを忘れちゃったら、その人は、この星からも消えてしまう、と。
巧は、大学生のとき、陸上をがんばり過ぎて、倒れてしまった。
そして、そのとき、自分のやっかいな病気を知ることになる。
発作が起こると、かなりやっかいだ。だから、食事も5回に分けてとる。
映画館にも入れない。静かな場所で発作的に大声を出してしまうからだ。
電車にも乗れない。飛行機にも乗れない。だから通勤も自転車だ。
巧は、司法書士の事務所で働いている。
澪が死んだときも、長い間、休ませてくれたし、今も、息子のために勤務を4時までにしてくれている。
そんなわけで、巧は、佑司と夕方になると、夕食の買い物に出かける。帰りには、公園に寄るのが日課だ。
公園には、「ノンブル先生」と呼ばれる老人が「プー」という犬を連れてベンチに座っている。
ノンブル先生は、澪が生きているときから、巧の家族を暖かく見守ってくれている人だ。
週末になると、巧と佑司は、町外れの森に行く。
でも、ある週末、雨が降り出した直後、佑司が目にしたのは、母。巧が目にしたのは、妻。
二人にとって、忘れようもない澪の姿だった。
澪は、亡くなる少し前、巧に予言した通り、6月の雨の季節に帰ってきた。
でも、完全に記憶をなくしているようだ。
現れたのは、まちがいなく澪だ。でも、自分の名前すら覚えていない。
巧のことも、佑司のことも、わからない。
それでも、3人で家に戻り、以前と同じ、懐かしい、暖かい生活が始まる。
姿かたちも、考え方も、まちがいなく澪なのに、どこか違う。
たとえば、佑司の散髪をじょうずにできなかったりする。
でも、そんなことは、どうでもよかった。
澪が、ふたりにとって、かけがえのない存在の澪が帰ってきてくれたのだから、、、、、、。
親子3人の幸せな生活は続いた。
でも、巧にはわかっていた。この幸せも、長くは続かないことを。
澪は、亡くなる直前に「雨の季節になったら必ず戻ってくる」と言っていた。
でも、「巧と佑司がしっかりと暮らしているのを見届けたら、夏が来る前に帰る」とも言っていたのだ。
と、あらすじは、これくらいにしておきましょう。
このあと、巧は、澪に(そして読者に)二人の出会い、そして、結婚に至るまでの過程を話し始めます。
中学生時代に出会い、20歳を過ぎて結婚するまで、それまで恋愛とはまったく無縁だった幼い二人の
関係が語られていきます。
そして、夏の訪れとともに、澪は消えてしまいます。澪が消えた後、巧は、お見舞いに行ったノンブル先生から
一通の手紙を渡されます。それは、澪からの手紙。澪が亡くなる直前に、1年後、雨の季節が終わったら、巧に
渡すように託された手紙。
この手紙の中で、巧は、澪が戻ってきたわけを知ります。
読者は「いま、会いにいきます」の意味を知ります。
やはり、澪はいい妻で、いい母で、いい人だったことを、深く深く知ります。
「いま、会いにゆきます」、、、、、、、なんていいことばなんだろう。
◇感想文
澪が巧と佑司の前に戻ってきたわけを書けないので、感想文書くのもちょっとつらいです。
ひとつだけ言っておきますが、戻ってきた澪は幽霊ではありません。他人の空似とか、双子という
オチでもありません。ほんとの澪です。
別に幽霊だったとしても、このお話は、ある程度成立したと思うけど、そうじゃないところに着目した
ところが、まず、著者のすごいところ、うまいところだと思う。
あらすじにも書いたように、澪がもどってきたわけは、物語の最終段階まで明らかにされないのだけれど、
それまでの心あたたまる歴史を知っている読者は、そこでいっぺんに涙腺が緩んでしまう。
すべてのことを飲み込んで、自らの死さえ乗り越えて、運命を受け入れて生きていく澪は、もはや、
妻や母ということばには、収まりきらない存在だと思いました。
そして、澪の言う「この世界をつくった誰かさん」の存在も、少しだけ垣間見たような気がします。
でも、澪が再び現れた奇跡を、この世界をつくった誰かさんのおかげだと思う読者もいれば、
澪自身の起こした奇跡だと思う人もいるかと思います。
それは、ほんとうは、どちらでも、よいことなのだけれども、妻とは、母とは、人とは? そして、恋とは? 運命とは?
あらためて考えてみなさい、と無意識のうちに語りかけてくるような作品でした。
そして、妻へのいとしさ、母の強さ、人のすばらしさ、恋のいちずさ、運命のふしぎを、きっとかみしめる
ことでしょう。読む人の置かれている環境や、人生、思いによって、少しずつ、それぞれの強さはちがうかも
しれないけど、ただストーリーを追うだけではいけない。感動しただけで終わってはいけない。そんな気がしました。
それにしても、、、、、「いま、会いにゆきます」、、、、、、、なんていいことばなんだろう。
このことばの意味を知ったら、しみじみそう感じるはずです。
この思いを共有するためだけでも、読む価値のある本だと思います。
いま、会いにゆきます(小学館文庫)
◇おまけ1:映画のこと1
この作品は、映画化されました(2004年10月30日公開)。
竹内 結子、中村 師童 主演。個人的には、いいキャスティングだと思いました。
僕は、ラッキーにも、この映画を事前に試写会で観せていただきました。
原作に感動しただけに、映画を観てがっかりなんてことにならないかな?と
ちょっと不安に思いながら映画を観たのだけれど、、、、、、、、、、、、、、
意外にも、予想以上に、いい映画でした。原作で感動した人にも、おすすめです。
もちろん、原作を読んでいない人にも、おすすめです。
映画は、原作とは、細かい部分で違う部分もあったけど、けっこう原作に忠実でした。
原作の世界観をこわさないよう気を遣っていたのが伝わってきました。
映画は、原作よりも、澪にフォーカスをあてていたような気がします。
澪が夏の訪れとともに去った後、澪が巧に出会ってからのストーリーを澪の視点で
振り返ります。この部分が、映画のオリジナリティを発揮している部分でもあり、
物語に余韻を与えることに成功している、と思いました。
映画「いま、会いにゆきます」
◇おまけ2:映画のこと2
それにしても、竹内 結子さんて、この作品に限らず、「天国の本屋 恋火」とか
「黄泉がえり」とか、ちょっとフシギな役が多いのですね。
ちなみに、監督の土井 裕泰さんは、これまでテレビドラマのフィールドで活躍していた人です。
代表作は「GOOD LUCK!!」「オレンジデイズ」「ビューティフルライフ」など。
映画の主題歌は、ORANGE RANGEでした。
◇おまけ3:映画版ノベライズ
映画の脚本をもとにノベライズ本が発売されました。
「ずっと、ずっと、あなたのそばに」
映画「いま、会いにゆきます」−澪の物語
というタイトルです。
著者は、若月かおりさん。この作品がデビュー作です。小学館文庫から発売されています。
それにしても、小学館は、「世界の中心で愛をさけぶ」もそうでしたが、
原作→映画化→映画のノベライズ本 という構図が好きなんですかね。
「セカチュー」の時もそうでしたが、今回も、主人公の女性(澪)の視点で物語が進んでいきます。
ただ、「セカチュー」が原作の17年後を映画化し、そのノベライズ本を出したのに対し、
今回は、原作を比較的忠実に映画化し、映画の脚本を小説にしたので、何か不思議な感じがしました。
「セカチュー」の時は、原作と映画のノベライズの両方読んでも、楽しめたけど、というか、必然性を
感じたけど、「いま、会いにゆきます」の場合は、原作と映画のノベライズ本のストーリーがそれほど
違わないので、両方読む必要がないし、必然性を感じませんでした。
小学館としては、原作を読まずに映画を観た人や映画を観たい人、興味がある人をターゲットにしたのかな。
確かに原作は、まだ少しの間、文庫化されないだろうし、このノベライズ本で間に合わせる人もいるでしょう。
でも、僕としては、(このノベライズ本も読んだけど、)やはり、原作を読んでほしいです。感動が全然違うから。
ノベライズ本は、本をあまり読まない人や、女子中学生向けかな、という気がしました。
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