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娼年

娼年の「娼」は、「娼婦」の「娼」。
この小説は、そんなおしごとの少年のお話です。


◇あらすじ

物語の主人公リョウは、20歳の大学3年生。10歳の頃、一人で留守番をしている時、外出先で
母親がこの世を去る。そして、今は下北沢の下宿近くのバーでバーテンダーのアルバイトを
している。大学には週に1回しか通わない生活。授業のノートは、同級生のメグミが店まで
届けてくれる。

リョウは、毎朝、鏡に写る自分の顔を退屈な顔だと思う。そして、女性もセックスも退屈な存在
だと考えている。

ある日、リョウの中学時代からの友だちで、ホストのシンヤが(リョウの)バイト先に御堂 静香
という40代の女性を伴って現れる。

リョウは、静香に「あなたの退屈なセックスに値段をつけてあげる」と誘われ、静香のマンション
を訪れる。静香は、若い男の子たちを女性に紹介する会員制のクラブの経営者だった。
1時間1万円の料金で、男の子たちは、話相手にも、デートの相手にもなる。もちろん、セックスの
相手にもなる。

リョウは、静香から合格点がもらえなかったが、マンションにいた咲良(さくら)という耳の
不自由な10代後半の女の子に救われる。そして、静香のクラブで働く決心を固める。

リョウの「コールボーイ」、すなわち「娼夫」としての夏が始まる。
一見、アブノーマルなふうに見えて、それぞれの女性には、ちゃんとリョウを買う理由が存在した。
30代や40代、時には、70代の女性の相手をしながら、リョウの女性観、セックス観は、しだいに
変わっていく。同じクラブのNO.1 アズマとも親しくなり、いつしか、リョウ自身もアズマとNo.1の
座を争うまでになっていた、、、、、、、。

と、まあ、こんなふうにして話は、進んでいきます。

リョウの娼夫としての生活が「縦の糸」だとしたら、「横の糸」、すなわち、リョウのまわりを彩る人たちも
物語の重要な構成要素です。どうも、この人たち、一筋縄ではいかないオリジナルな人たちばかりです。

物語は、中盤以降、終盤にかけて、こんなことが語られていきます。
・アズマ君は、なぜNo.1なのか。
・咲良の秘密とは何か。
・静香は、どんな過去を持っているのか。
・メグミは、どんな決心をするのか。
・リョウのお母さんは、どんな人だったのか。
そして、
・リョウは、娼夫を続けていくのか。

215ページという、そんなに長くはないお話ですが、けっこう読み応えがあるはずです。


◇感想文

上のあらすじを読まれて、「ちょっと、この手の話はパスだな」と思った人っていませんか?

確かに、話の展開上、セックスのシーンは何回か出てきますが、そんなにエロくはないですよ。
リョウが相手をする女性たちには、それぞれ、男を買う理由が存在します。
彼女たちには、哲学があり、時には、儀式さえリョウに協力を求めます。
何か、男が女を買う理由に比べて深い理由、心の深層が見え隠れするのです。
リョウとのセックスを通して、彼女たちの生き様がみごとに描かれていて、ぼくがこの作品を
好きになった理由のひとつがここにあります。

だからこそ、リョウも、退屈な毎日と決別するためではなく、「女性の不思議」や「欲望の不思議」の
果てを見ることが、いつしか、娼夫のしごとを続けていく理由になっていくのです。

そして、この作品をおすすめするもうひとつの理由は、あらすじで書いた「横の糸」の人たちです。
物語の中盤以降、彼女たちとリョウの関係も変化するし、彼女たちの秘密や過去がどんどん明らかに
なっていきます。

リョウも、読者もパニックにならない程度に、著者は絶妙のタイミングとバランスで、横の糸を縦の糸に
紡いでいきます。読後感は、むしろ「すがすがしい」感じすらしました。

ふつうの人たちが決して経験することのできない「ひと夏の疑似体験」を読者にプレゼントしてくれる、
そんな作品だと思います。

最後に。
とてもいい作品なんだけど、映画化するのは、難しいだろうなぁ、、、、、、。

コメント 娼年(集英社文庫)
◇おまけ

石田 衣良(いら)さんは、この作品で初めて直木賞候補になっているんです。

2001年、「娼年」で第126回直木賞候補作にノミネート。
2002年、「骨音」で第128回直木賞候補作にノミネート。
2003年、「4TEEN」で第129回直木賞受賞。


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